絵本の部屋2 シュールさが心に刺さる森のくまさん!?

Choice

海のある町でのびのびと暮らす、クリエイター夫婦の子育て

名前
ヨシタケシンスケ & 吉竹祐子
家族
中2と小3の男の子をもつ、4人家族
所在地
神奈川県
お仕事
絵本作家(夫)、クリエイター(妻)
URL
くりひょうたん。by吉竹祐子

【新連載:ヨシタケシンスケ邸〈絵本の部屋〉から、家族の思い出が詰まったおもしろ蔵書をご紹介。妻の祐子さんが綴ります】

vol.2
『ぼくは くまのままで いたかったのに......』
イエルク・シュタイナー 文/イエルク・ミュラー 絵/おおしま かおり 訳

我が家の〈絵本の部屋〉から見つけた、1978年に発行された興味深い絵本を紹介します。
文章を書いたイエルク・シュタイナーと、挿絵を描いたイエルク・ミュラーは、二人ともスイス人。シュタイナーは、元々教師をしながら作家活動をし、ミュラーは、工芸大学で絵画を専攻し、広告代理店で働いたのちに独立したそうです。そして二人がタッグを組んで初めて作られた絵本がこの本なのだそう。

冬が訪れいつものように冬眠に入った「くま」だったが、眠っている間に、森の木は人間たちに切り倒され、大きな工場が建てられた。冬眠から目が覚めた「くま」は、周りの人間に「くま」だということを認めてもらえず、工場で働かされる羽目に。しかし何をやってもうまくいかず、しまいには追い出されてしまう。モーテルに泊まろうとしたところ、今度は、「くまだからダメだ!」と言われ、路頭に迷う。しかし、また冬がやってきて冬眠に入る......。人間の身勝手さや、自然崩壊の様子が、シュールに描かれています。

最初この本を手にした時、絵本なのに絵本でないような、そんな不思議な感じがしました。読んだ後は、なんだか物悲しく、次男にいたっては泣きそうになっていました。決して晴れ晴れとした気持ちにはならない絵本ではありますが、息子たちにとって印象に残っている一冊のようです。そして内容だけでなく、挿絵がまた、細かいところまで描き込まれていて、どこかシュール。絵本は子どもの為にあるもの、と思われがちですが、この本はどちらかというと、大人へのメッセージのようにも感じ取れます。

1978年の当時も、40年以上たった今も、人間にとって永遠のテーマである、自然との関わり方、共存のあり方、サステナビリティについて問われる内容です。親子で読んで、それぞれどんなことを感じたか?を話し合ってみるといいのかもしれないですね。

〈連載概要〉ヨシタケシンスケ邸のおもしろ蔵書の数々を、妻の祐子さんが心温まる子育てエピソードと共に綴る、その他記事はこちらより
ヨシタケシンスケ邸絵本の部屋

       
  • 冬眠の「くま」が目覚めるとき

  • モダンに描かれた部屋

  • 巨大な工場の機械

          
  • 絶妙な光と遠近感

  • 小学生の夫が作ったゴムハン

  • 冬眠していた洞穴の出口が、なんと!工場とつながっていた。「くま」は、ただただいつもの春と同じように目覚めただけなのに……。

  • 工場長の部屋がとってもモダンに描かれています。1970年代後半の最先端!といった感じもまた面白いのです。

  • 細かい部分まで丁寧に描きこまれた絵が、この絵本の魅力の一つでもあると思います。

  • イラストなのにテレビアニメのように感じます。右奥のライトを点けた車が手前に向かってきそうです。

  • ページ最後には義母が主催していた文庫「たけのこ文庫」のゴムハンが残っています。ハンコは、当時小学生だった夫が作ったのだそう。

  • 「くま」と認めてもらえなかったくまが、顔の毛を剃るシーンが表紙に。
    『ぼくは くまのままで いたかったのに……』(ほるぷ出版刊)イエルク・シュタイナー文/イエルク・ミュラー絵/訳おおしまかおり