海外留学への心構えと、3人の子どもたちとの距離感のこと

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個性溢れるパッチワーク家族は、3カ国それぞれの生活に挑戦

名前
大草 直子 / Naoko Okusa
家族
5人(夫、22歳と12歳の女の子、17歳の男の子)
所在地
東京都
お仕事
スタイリスト、『AMARC』主催
URL
AMARC

大草直子さん、海外留学を通じて生まれた家族の新しいかたち①】

ファッションエディターであり、スタイリスト。大草直子さんは、自分らしさを投影したオンラインメディア『AMARC』を立ち上げ、自身が選ぶものやオリジナルな生き方を発信し続け、いま多くの女性に影響を与えています。さまざまな分野で活躍を続ける彼女は、3人の子どもを育てるママとしての顔も持ち合わせています。家族は、大学4年生のヒナコさん、高校2年生のリオくん、小学6年生のマヤちゃん、そしてニューヨーク生まれでベネズエラ育ちという夫、チャーリーさんの5人。今年、大草さん家族は子どもたちの海外留学を機に、日本とイギリス、そしてアメリカという3拠点に離れての生活が始まりました。いつの時代も最先端を歩くような、大草さんの新しい生き方を探ります。


(こちらは、第1回の記事です。第2回はこちらから。)


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昨年の9月くらいから、お子様たちが留学されて、大草さんお一人での生活が始まったそうですね。

――そうなんです。高校2年生の息子、そして小学6年生の娘が留学に出ました。夫が付き添ってサンディエゴに旅立ったんです。長女は、その前からロンドンで大学に通っていますから、東京の家では私一人の暮らしが始まりました。でも、ひとりの時間をあまり満喫する暇がないほど、仕事を詰め込んでしまっていて。家族がばらばらなこの状況には一応リミットがあるという前提なので、喪失感よりも、自分のためだけに使える時間に感謝しています。私は22歳から出版社に勤務し、土日もなく朝から晩まで働いてきました。気がついたら母親になっていて、さらに働いてきたという感じなので。


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子育て期の真っ只中で、自分だけの時間ができたことは、どう感じていますか。

――違和感ではないけれど、いままでは子どもや夫、子どもを預ける実家の両親とか、他人軸で自分のスケジュールが全部決められていく感じでした。自分の時間を何とか確保しようと思うと、時間が四角くなっていく感覚だったのが、いまでは丸く広がっていく感じがしています。24時間というのは当然変わらないけれど、不思議と時間がいかようにでも広がっていく感じがしていますね。


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家族と離れて生活することで、時間に対する考え方に変化が生まれたのですね。子どもたちの海外留学の期限については、どのように決めているのですか。

――先の物事を、いまはあまり決めないようにしているんです。時間が広がることは、いい意味で境界線がなくなるっていうことですから。何年までにこれをやってとか、子どもたちをいつまでには日本に戻そうとかは、考えるのをやめました。実は先日息子が、もう1年いたいって言い出したので、なんとか彼が現地にいられる方法を考えているところなんです。その後のこともどうなるかわからないし、来年は日本の大学の受験が控えているから帰ってこなきゃだめなどと、あんまり考えないようになりました。


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留学中の息子さん自身も、異国での経験を重ねて色々と気持ちの変化があるのですね。それを受け止めてあげる心構えとして、大草さん自身も柔軟になったということでしょうか。

――そうですね、私自身も家族と離れてみて、とても柔軟になりました。いままで私は、何事にも"締め切り"がある女だったから(笑)。仕事も家族の時間も、生活のすべてが"締め切り"に追われるような毎日でした。よく夫にも言われましたよ、「なんか君の人生は、すべて締め切りでできている!」みたいな(笑)。


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家族が離れてみて、皆さんそれぞれにメリットは感じられていますか。

――改めて聞いたことはないけれど、長女はロンドンで念願の一人暮らしをして、ヨーロッパを広く満喫しているようです。この間は、パリとアムステルダムに行ったようですし、ニューヨークにいる友達も遊びに来たようです。長女はコロナの影響もあって、2年越しの夢であった留学が叶ってすごく楽しそう。本人は、アートが好きで美術館がたくさんあるという理由でロンドンを選んでいるので、自分で思い描いた通りにやれていることが一番のメリットですよね。自分の決めた道を具体的に実践しているということが、彼女にとってはすごく大きいと思います。

高校生の息子に関しては、彼自身がアメリカに行きたいと言い出したので、やはり彼もすごく楽しそう。息子が最初に留学を経験したのは、彼が中2から中3のときの1年間。そして、もう一度アメリカに行きたいと本人が言い出したのが、高1の時でした。

先日、「あと1年残りたい」って息子から連絡があったときは、「まだ日本の高校に在籍しているけど、どうして?」って聞いたんです。そしたら息子は、「人との距離感とか、授業の進め方とか、自分にはこっちの方が向いていると思う」って言ったんですね。日本の大学の志望校もはっきり決まっている彼が、あえてそう言ってきたことに、「それを自分で決められたことが一番すごいよ」と伝えました。息子に関しては、アメリカ留学を通して、なんとなくでも自分の進路や将来の大道筋が決められたことが、本当に良かったなと思います。


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息子さんは、日本では小学校から高校までの一貫校に在籍しているそうですね。一貫校だと、学校に残ることが普通になってしまいそうな気がしますが、それでも息子さんの目が外に向いた理由は何だったのでしょうか。

――ある意味"閉鎖的"とも言える学校の一面が、彼にはキツかったんじゃないですかね。友達もいっぱいいて先生からも慕われて、学校自体は合っている感じはしました。でも、自分に置き換えて考えてみたら、私も高校のときに1年間留学をしているんです。私も同じく一貫校だったのですが、高2で留学した理由は、外の世界が見たかったからなんです。こんな小さなところ嫌だって、当時思ったんですね。もしかしたら、息子も同じ気持ちだったのかもと思います。遺伝かもしれませんよね(笑)。


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お母さんと息子さんの距離感って、これまでどのようにとってこられたんですか? 男の子の子育てとなると、きっと難しい時期もあったかと思いますが。

――はい、息子はものすごく大変でした。人並みな反抗期はもちろんありましたし、学校に呼び出されることもありました。何より彼は、中学生の時に病気をして、その病気が元で怪我もして、さらに手術をするという大変な2年半を過ごしました。いまはだいぶ良くなっていて、日常生活も普通に送れるようになりました。どうにもならない時期を乗り越えてみると、反抗期のときは適度な距離を取ることが一番大事だった気がします。相手を信じてあまり入らない、立ち入らない。彼のスペースと彼そのものをリスペクトしてあげることですよね。

思春期のイライラも含めて、それはホルモンだからしょうがないんです。私の更年期と一緒のことだから。あまり部屋から出たくないとか、そんなイライラも含めた全部をリスペクトすることが大事なんですよね。うるさく、「どうしてるの? 何してるの? あんたもうちょっと何か話しなさいよ!」とか、よもやそんなことは言わない。それは、女の子でも男の子でも大切なのかもしれませんが、男の子は特にそのスペースが必要なのかもしれないと感じました。部屋に無断で入ったりもしないし、もちろん彼のSNSを覗いたりもしない。適度なそして敬意ある無関心さみたいなものが、すごく大事だと思います。


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男の子の領域を守るということですね。一方で、まだ甘えたい気持ちもある年頃に、留学して離れたいま、お母さんとして心がけていることはありますか。

――息子に関して言えば、離れてみて感じるのは"甘え"というよりも"信頼"みたいなものです。彼は病気や怪我、手術を経験してから、留学でさらに大きくなっていて、いまではどこか達観したようなたくましさが生まれました。だからこそ、彼の意志をリスペクトし彼の希望を叶えるために、同時に家族の誰かが我慢をしないように、将来を考えたいと思っているんです。

(大草直子さんのインタビューは、第2回に続きます。)


〈連載概要〉
大草直子さん、海外留学を通じて生まれた家族の新しいかたち

第1回:海外留学への心構えと、3人の子どもたちとの距離感のこと(本記事)
第2回:子どもの個性と気持ちを尊重した、海外留学させるタイミングと理由
第3回:大草家の三拠点生活。離れていても、家族は繋がっているということ

       
  • 父娘

  • 息子と娘

  • サンディエゴに留学中の娘。ママがいないと不安と言いつつも、父親がそばにいる心強さはきっとあるはず。

  • 遠く離れているからこそ、時折届く写真に子どもたちの成長を大きく感じます。