ゴッドマザーの影響とヨガで癒しと意義を見つけたロンドン時代
仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅
- 名前
- アンジェラ レイノルズ/ Angela Reynolds
- お仕事
- モデル、ギャラリーペロタン東京ディレクター
- Info
- 取材・文/門倉奈津子 プロフィール写真/HAL KUZUYA
- URL
- アンジェラ レイノルズ Instagram
【仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅】
Bright Choiceは、育児に励む女性たちのこれからの生き方・働き方についても今後新たな提案をしていきたいと考えます。出産・育児にあたり、これまでの仕事を一時的にお休みしたり、働き方を変えるということはすでに多くの女性が実践していますが、もう一歩進んで、新しい分野への挑戦や自分自身をバージョンアップさせるような職務経験を積んでいく「セカンドキャリア」の可能性についても、一緒に考えていきませんか?
今回は、10代からモデルとして活躍し、現在はギャラリーペロタンの東京ディレクターとしてアートギャラリーの運営に奔走するアンジェラさんに、独自のキャリアパスを築き上げた過程や、仕事と育児の両立についてお話しを伺いました。アンジェラさんがお話しくださった内容を4回にわたりご紹介する短期連載の第2回目です。
◾環境を変えようとロンドンへ移住
モデル業をいったんすべて辞めて、大学に通いながらガソリンスタンドで約2年半働いたというアンジェラさん。そして思うところがあり、思い切って環境を変えたいとロンドンへ移住しました。
「ロンドンに移住することで、アノニマス(誰でもない)という部分でとても解放されました。日本ではモデルの仕事はもう辞めていたのですが、一応ブック(編集部注:過去の作品・仕事内容をまとめたポートフォリオ)は持って行きました。当時、ケイト・モスが所属していたStormという事務所があり、そこの創業者であり社長のサラ・ドゥーカスがとても素敵な方で、私が日本でお世話になっていたフォトグラファーのNAOKIさんの知人だったので、NAOKIさんが繋いでくれました。当時は、Stormが受け入れてくれるのならモデルの仕事を続けよう、という気持ちでロンドンに向かいました。ダメならひとまずバーとかで働いて、自分の道を見つけ出そうと考えていました。結局、Stormに受け入れてもらえることになったので、またモデルをやることになりました。
とはいえ、海外でのモデルの仕事は日本とは事情がまったく異なっていて、まず毎日10軒くらいロンドン中の住所を渡されて、自分で地図で調べて電車に乗ってブックを持ってオーディションに行って仕事を得るというスタイル。交通費も、事務所が自分のために使うコピー代もバイク便の代金もすべて自腹ですし、仕事が決まっても報酬が出ないことも多く、厳しい生活でした。私はすでに日本でキャリアを積んでいたし、仕事に対しての姿勢が出来上がっていたので、ある時から、『これは私の趣味ではなく、仕事なので報酬の出ない撮影はやりません』と線引きをするようにしました。そうしたバウンダリー(境界線)を作れるようになったことで、逆に仕事の流れは良くなったと思います」
◾️ゴッドマザーの影響とヨガとの出合い
そしてモデルとしての仕事を再開しながら、興味を抱いていたヨガの世界にゴッドマザーを通じて足を踏み入れたアンジェラさん。
「私の名前は彼女からいただいたものなのですが、ゴッドマザーのアンジェラさんは、もともと父の友人でした。二人は60年代後半のロンドンで東洋思想やヨガ、ダービッシュターニングというスピリチュアルなプラクティスなどを勉強していて、彼女はその後、インドでアイアンガーヨガを生み出したアイアンガー先生の一番弟子になり、西洋にヨガを紹介した第一世代のひとりになった方です。私と兄のゴッドマザーだったので、それまでも何年かに一度はロンドンで会っていたのですが、すごく自由な空気を纏った女性です。
子どもの頃からなぜかわからないけど、彼女にずっと憧れていたし、彼女のことが大好きで興味津々で。もっとこの人と一緒に時間を過ごしたいなと思っていました。ロンドンに移住し、アンジェラさんとヨガに触れ始めた頃は、まだ自分の母の死も消化できていなかったり、日本で辛い出来事もあった中で、アンジェラさんが唯一のガイディングライト、光を射してくれた存在でした」
そしてもともと興味を抱いていたヨガに、彼女を通じて導かれました。
「ある時、イギリスの田舎で開催された3日間のワークショップに参加しました。体のエクササイズみたいなヨガよりも、もっとずっと深くて、体の内なるものに触れていく、内なる声に耳を傾けていく。自分にとっての一番の先生は、自分の中に居る、という教えなのです。本当に素晴らしいと思い、衝撃を受けました。それでアンジェラさんがギリシャで長期にわたるワークショップを開催されていたので、それに参加することに。最初は1ヶ月。翌年は2ヶ月行って、アンジェラさんの追っかけみたいな生活というか(笑)。モデルでお金を稼いではヨガのワークショップへ行くというような生活を4年ほど続けました。
アンジェラさんご夫妻は年中世界ツアーを行っていて、ギリシャがひとつの大きな拠点だったのですが、その他にアメリカやカナダ、メキシコにも追って行きました。パンデミック前にギリシャに落ち着かれて、今はもう85歳くらいですが、現役で教えていらっしゃいます。私の恩人でも目標でもあり、家族のような存在で、アンジェラさんご夫妻には足を向けて寝られません。そして二人に教わったヨガは今でも毎日朝晩行っています」
◾️予期せぬ闘病と日本帰国
精神的な落ち着きを得たロンドン暮らしを経て、アンジェラさんは2006年に日本へ帰国します。
「ロンドンに住んでいた26歳の時に癌に罹ったのです。見つかった時にはすでにステージ4Bの末期癌でした。リンパと胸骨、肺にも転移していたので、すぐにロンドンで抗がん剤治療を開始しました。髪の毛も爪も副作用で全部落ちました。もちろん仕事なんかできないし、ベッドの上で、座ることもなかなかできないくらい大変な治療でした。抗がん剤治療を受けている時は思考するエネルギーすらありませんでしたが、心緒がとてもシンプルになりました。生きることと、愛すること、その二つしか存在しない心。半年間でなんとか持ち直すことができ、しばらくは体の中に強力な化学物質が残っているような不思議な感覚でしたが、ドクターにも奇跡的な回復と言われました。
その時期に日本に一時帰国した時に、当時、洋服のブランドを手がけていた兄が『ブランドの海外PRを手伝ってくれない?』と言ってくれて。たぶん私を助けたかったのだと思うんですよね。私も大病をした後に家族の近くにいたかったし、ありがたく兄のオファーを引き受けました。
その時はまだ、『しばらくの間、日本に戻る』という感覚でしたけどね。その頃は自分の世界が広がっていくのは、ロンドンやサンフランシスコ、ニューヨークなどの文化的環境だと感じていましたから。まだまだ自分のアドベンチャーは始まったばかり、という思いでした。一方で、20代の私にとって日本は確実に私の安心できる場所であり、休息できる場所でした」
病気になるまではまさか日本に本格的に帰国するとは思っていなかったアンジェラさん。人生の冒険は日本の外にあるという感覚でした。
「今はもう、自分の世界の広がり方というのは、自分のいる"場所"に依存しているわけではないというのもわかってきました。逆に動き回っていない方が成長できるかなと思うのです。きちんと一つひとつのことに向き合って深く掘り下げていくこと、そこに宇宙があるということ。特に子育てをし始めると、"今ここ"でやることが追いつかないぐらいありますよね。磨くべきことも手放すべきこともあるし。30代、40代になってそういう風に考えるようになりましたね。
ただ、幼児期からアフリカとか広大な土地を夢に見て、旅に強い夢を持っていて、自分の今世のここにいる意味、何かの鍵のひとつが旅にあるということを幼いながらも確信していたのです。それが私にとっての正しい道、そこから自分の人生は導かれると思っていました。だからそれを実現できた20代は自分の人生が始まっているなという実感がありましたね」
◾️辛かった経験から得たと思うこと
「ヨガに関しては、その頃抱いていた苦しみが導いてくれたのも確かなので、自分が何かに深く打ち込んでいくという原動力に、不安や辛い気持ちが導いてくれたのかなと思いますね。病気に関しては、誰にも経験してほしくないですが、私自身にとっては収穫が多い経験でした。同じように闘病生活を送っている方々に言葉をかけて、自分の経験や情報、考えを共有することが出来るようになったりとか...これ以上素晴らしいことはないですよね。私はロンドンでの闘病時に、周囲の友人たちがオープンにいろいろと話してくれたことがすごく救いになりました。今、立ち向かっていくことで乗り越えて行こうよ、と周りがアプローチしてくれたのは本当に勇気をくれましたね」
お母さまの死やキャリアの変遷、ロンドン移住から闘病生活など、人生前半の早い時期にさまざまな経験を乗り越えてきたアンジェラさんのお話はこちらの予想を超えています。
「ふふふ。意外と波乱万丈なので、、、今が一番楽かもしれないです!」
ロンドンから本帰国し、再び東京での生活を開始したアンジェラさんは、それまでの経験を生かしながら新しいキャリアを築き上げていきます。
<連載概要>
【仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅】
第1回:14歳の高校生からモデルへ|自分で人生を決めて動かした10代の日々
第2回:ゴッドマザーの影響とヨガで癒しと意義を見つけたロンドン時代(本記事)
第3回:ジャーナリストから未知のアート界に飛び込み新たなキャリアを邁進