自分の良い状態をキープして子育てにもしっかりと向き合いたい

Choice

仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅

名前
アンジェラ レイノルズ/ Angela Reynolds
お仕事
モデル、ギャラリーペロタン東京ディレクター
Info
取材・文/門倉奈津子  プロフィール写真/HAL KUZUYA
URL
アンジェラ レイノルズ Instagram

仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅

Bright Choiceは、育児に励む女性たちのこれからの生き方・働き方についても今後新たな提案をしていきたいと考えます。出産・育児にあたり、これまでの仕事を一時的にお休みしたり、働き方を変えるということはすでに多くの女性が実践していますが、もう一歩進んで、新しい分野への挑戦や自分自身をバージョンアップさせるような職務経験を積んでいく「セカンドキャリア」の可能性についても、一緒に考えていきませんか?

今回は、10代からモデルとして活躍し、現在はギャラリーペロタンの東京ディレクターとしてアートギャラリーの運営に奔走するアンジェラさんに、独自のキャリアパスを築き上げた過程や、仕事と育児の両立についてお話しを伺いました。アンジェラさんがお話しくださった内容を4回にわたりご紹介する短期連載の第4回目です。


◾️慌ただしい日々と子育ての両立

現在はフルタイムのギャラリー勤務に加えて、モデルのお仕事や取材などをオフの日に受けながら、ご家庭では9歳男の子を育てています。子育てについてはご両親を指標にしながらも、日々考えを巡らせています。

「息子は野球少年です。子どもは真剣に野球に取り組んでいて、平日は毎朝晩トレーニング、週末はチームの練習や試合があります。それだけでもとても忙しく過ごしているのに、『私もちょっと急かしてしまっているなぁ』と思うこともあります。

野球は、主人が小2から高3まで取り組んできたスポーツです。彼は野球によって人格形成されて、自信やプライドも得て、大事な規律を教わったので、息子にも経験させたいと以前から語っていました。私はその考えを尊重して、私の知らない世界ですが応援しています。

一方で、息子は野球以外では絵を描いたり、散歩しながら花や昆虫を観察したりすることも好きなので、美術館や博物館へ出かけたり、評価に関わらないこと、そうした時間も作ってあげたいと思って積極的に取り組んでいます」

小学生といえど、真剣にコミットしているスポーツの世界は厳しいもので、練習を積み重ねて上達していかないと試合には出られません。

「スポーツをやるなら本気でやるしかない。気分が乗らないと言うくらいならやらない方がいい。ケジメをつけること、それを教えたいと主人は言いますし、その通りだなと思います。

フルタイムで働いていなければ、学校と練習の合間に、もっとどこかに連れて行ってあげたりもできるのかなとは思うのですが、私の選んだ自分の道を大事にすることも私の責任だと思っています。ただ、息子にも世界を広げてもらいたいので、家族と過ごす時間、野球以外の時間をちゃんと作ることも意識しています。読書や絵を描くことは毎日しているし、いろいろと刺激になるものは日々与えているつもりです」


◾️子育てで心がけていることは

日英バイリンガルのアンジェラさんご自身が育ったご家庭では、英語と日本語の両方で会話をしていたそうです。とはいえ、日本で公立小に通い、忙しい生活を送るお子さんには、あえて家庭で英語学習は行ってないと語ります。

「英語の勉強ももっと家庭でできるのかもしれませんが、これ以上詰め込みたくないという思いがあって今はまだ取り組んでいません。家庭内で私と主人が英語で話すことも多く、いろいろな国の音楽や料理を楽しんだり、様々なバックグラウンドの友人と一緒に過ごす際に息子も連れていきますので、そうした場で異文化での子どもの在り方や家庭内での関係性や会話、ボディランゲージ、お家のデザインや物事に対してのアプローチ、ユーモアなどでの多様性に触れていると思います。それから私と夫がかつてそれぞれ過ごしてきたインターナショナルな経験や今それぞれ活動しているクリエイティブな現場など、結構ユニークなものに触れられているかなと思います。

家では子どもがボーッとする時間も大事。あとは空間を楽しくすることも。自分の部屋は自由にデザインしていいよと伝えて、壁を美術館のように自分の絵で埋め尽くしたり、彼らしい空間を楽しんでいると思います。

小1の頃だったか、iPadでYouTubeを見たいと言うことがありました。仕事から帰ってきて、まず子どもには宿題をさせながら、私は夕食やお風呂の準備など同時にいろいろとやっていて...。そういう時に息子が私のアテンションを求めても、私が本当に向き合ってあげないとiPadに行ってしまうことに気づいたのです。でも、私がちゃんと応えて向き合えばiPadは求めない。結局、優先されるのはいつも人なんだな、と気づけた時には安心しました。それからは、ちょっと夕食は遅くなってもいいから、息子と向き合う時間を大事にしようと決めました。そしてさらに会社にも頼んで、始業時間を1時間早くする代わりに終業時間を1時間早めてもらいました。そうしたら自分のスケジュールと気持ちにももう少しゆとりが持てるようになりました。

息子は、学校の課題の作文などで、本当に面白い文章を書くのです。何を思いながらこれを書いたのかと聞くと、すごく楽しそうに話してくれます。たわいもない会話かもしれませんが、私も彼に一人の人間として、一人のアーティストとして興味を持っていますし、それを伝えることも大事なのかなと思います。親子だからどうしても指示しなければいけないこともポジション的にあるじゃないですか。『もう寝なさい』とか(笑)。でもそのバランスを取るためにも子どもを尊重する、尊重していると表現することも大事なのだと思います」

アンジェラさんが実践する子どもの心を尊重する子育てには、親子がお互いに気持ちよく過ごせて、結果として、関係性がより良くなるヒントもあります。

「『もう⚫︎時だから、これしなさい』と言うだけだとつまらないですよね。こちらも嫌な気分になりますし、子ども自身も拒否したくなると思うので、例えば『⚫︎時に寝るよね? その前にこれとあれをやらないといけないから、何時に準備始める? 自分の時計でアラームセットしたら?』とか。あとはクリスマスツリーをしまわなくてはいけない時に『手伝って』と頼むと『え〜、嫌だ』と言われるので『このツリーね、こんな小さい箱にしまわないといけないんだけど、入ると思う?』と聞いたら『僕できるよ!』って(笑)。そういう風にいちいち聞くのは少しだけ時間を要するのですが、ちょっと楽しくさせてあげることによって、家族皆がハッピーになることがいっぱいあるのではないかと思っています。

そういうアイデアも含めて、他のご家族の様子を見てみたり、考えたり調べたり本を読んでみたりして子どもの思考能力、イマジネーションを潰さずにどう家庭生活を円滑にするかを考えています。

指示を出し過ぎた結果、『次、何やればいい?』って聞かれたことがあってすごく嫌でした。時間はかかるかもしれないけれど、子どもに思考させ、自分で判断して動いてもらうことはとても大事だと思っています。子どもの生活には自分でコントロールできないものがたくさんあるので、たとえそれが『どっちのスプーンで食べる?』というような、小さなことであっても、チョイスをさせることを心がけています。

子どもを信じて尊重するというのが、私が実際に両親から受けた教育・哲学なので、ただ親に従うことよりも思考能力をつけさせることを優先しています」


◾️一番大事なことは自分を良い状態にしておくこと

フルタイムでお仕事もして忙しいにも関わらず、息子さんにも丁寧に向き合われているアンジェラさんには、見習いたいことがたくさんあります。

「いえいえ、毎日反省があります。子育てのプロセスは、毎日反省して自分と向き合い、子どもとともに自分も成長して変化していくことなのだと感じています。自分の気の短さや器の小ささ、体力のなさなど色々と突きつけられます。自分が疲れてイライラしていると、つい子どもに命令形で接してしまうこともあります。だから子育てで一番大事なのは、自分を良い状態にキープすることだと思うんです」

アンジェラさんにとって、ご自身のコンディションを良い状態に保つ方法は、長年続けている毎日のヨガのほか、4年ほど前に始めたサーフィンがあります。

「サーフィンは主人と一緒に出かけています。月に何度かしか行けない時もあれば、週に2、3回出かけることも。海と数時間、全集中で向き合うことで、心身ともに完全にクリアになります。脳が波に集中している瞬間に突然ふと気になっていたことの答えが出てきたりもするので、海にはとても助けられています。

それに、セルフケアで言えば、セラピーをオンラインで2週間に1回受けています。過去にもセラピーを受けたことがありますが、今私が受けているセラピーは、今の自分が大切にしているものや人に対して、今ここにいる自分が自分のベストで立ち向かえるように、最大限に大切に扱えるためにしています。過去の何かを引きずって投影していたり、自分の心底のニーズを理解していないと、仕事も家族も正面から向き合えないので、このプロセスも心の中をクリーンにするための作業ですね。課題を決めて話を始めることもあれば、セラピーの合間の2週間に気になったこと、ふと湧いてきた感情などについて話すこともあります。

あとは主人に相談すること。主人は親友でも恋人でもあり、尊敬する人間で、何より同じ『今ここ』を共に生きているパートナー。人は親という資格を取って親になるわけではないので、『ああ、今日はキツく言い過ぎたかな』と反省することもありますが、自分ひとりだけで抱えていると深く悩み過ぎてしまったりするので、主人に相談することも多いです。結局皆の心の状態が良くないと、家族って楽しくなれないですからね」

幼少時からオープンマインドな大人たちに囲まれていた影響は、アンジェラさんの人生だけでなく、しっかりと子育てにも受け継がれています。

「自分では、もう少し遊び心を持って、楽に優しくできるようになりたいなって思います。自分が母親から受けた子育てもそうですし、周囲にいた大人たちももっといい意味で抜けていたなと思うから、まだまだです。とはいえ『まだまだ』なんて言っている時間もない。

私が日々反省していると、主人がよく言ってくれるのですが、細かなところよりも、一番息子に影響するのは、私たちの生き様、背中を見せることだよねって。考えてみれば、『両親だったらきっとこう言っていたな』ではなく、『きっとこうしていたな』って思うんですよね。だからやはり自分の生き方と引き続ききちんと向き合っていくことが大事なんです。

自分のクオリティを上げていくことによって、子どもに見せてあげられる可能性、基準にする価値観などを家庭内でも伝えられたらいいなと思います。そのためには、自分の時間をとり、軸を整えて、本来の自分として生き続けることが何よりも大事に思います」


<連載概要>
仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅
第1回:14歳の高校生からモデルへ|自分で人生を決めて動かした10代の日々
第2回:ゴッドマザーの影響とヨガで癒しと意義を見つけたロンドン時代
第3回:ジャーナリストから未知のアート界に飛び込み新たなキャリアを邁進
第4回:自分の良い状態をキープして子育てにもしっかりと向き合いたい (本記事)

       
  • 好奇心旺盛でわんぱくな息子

  • 野球に夢中

  • 友人のアーティストから絵の描き方を教わる

          
  • 学校帰りにペロタンへ

  • サーフィンで自分を整える

  • 毎日野球に打ち込んでいますが、虫を捕まえて観察するのも大好きです。

  • 息子は登校前や就寝前にもトレーニング、週末はチーム練習や試合など、とにかく野球を頑張っています。

  • 私の友人のアーティスト、プシェメク・ソボツキが、夕食を食べながら、息子に人物の描き方を教えてくれました。息子は、あまり言葉が通じなくても気にすることなく、プシェメクと自然とやりとりしていました。

  • 絵を描くのが好きな息子は、コンテンポラリーアートにも興味津々。
    Aryo Toh Djojo, Love Above, 2023. Acrylic on canvas, 121.9 × 152.4cm | 48 ×60 in

  • 時間を見つけては千葉の海へサーフィンへ出かけます。