ジャーナリストから未知のアート界に飛び込み新たなキャリアを邁進

Choice

仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅

名前
アンジェラ レイノルズ/ Angela Reynolds
お仕事
モデル、ギャラリーペロタン東京ディレクター
Info
取材・文/門倉奈津子  プロフィール写真/HAL KUZUYA
URL
アンジェラ レイノルズ Instagram

仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅

Bright Choiceは、育児に励む女性たちのこれからの生き方・働き方についても今後新たな提案をしていきたいと考えます。出産・育児にあたり、これまでの仕事を一時的にお休みしたり、働き方を変えるということはすでに多くの女性が実践していますが、もう一歩進んで、新しい分野への挑戦や自分自身をバージョンアップさせるような職務経験を積んでいく「セカンドキャリア」の可能性についても、一緒に考えていきませんか?

今回は、10代からモデルとして活躍し、現在はギャラリーペロタンの東京ディレクターとしてアートギャラリーの運営に奔走するアンジェラさんに、独自のキャリアパスを築き上げた過程や、仕事と育児の両立についてお話しを伺いました。アンジェラさんがお話しくださった内容を4回にわたりご紹介する短期連載の第3回目です。


◾️東京で新たな道を模索して

2006年に東京に戻ったアンジェラさんは、お兄さんのユアンさんが手がけるブランドの海外PRを担当するところからまた新たなキャリアをスタートさせた後、少しずつモデルの仕事も再開しました。

「帰国して兄の仕事を手伝っているうちに、街を歩いていると昔からの知人たちにバッタリ会って、『日本にいるんだ! 今度撮影をお願いしてもいい?』と聞かれるようになり、また時々モデルとしても仕事をしていたのですが...。ロンドンで病気に罹る直前にはすでにモデルの仕事はほとんどせずにヨガの世界に深く浸っていて、鍼や東洋医学の勉強を検討していましたので、正直なところ、ちょっと心がファッションの世界から離れていたんですね。

『私の道は、健康面も含め、もっと人の内面的な、ジャーニー(旅)に関わることなのではないか』と思っていました。とはいえ、自分の大好きなスタッフの方々とまた仕事もしたいという想いもあったので、撮影を引き受けていたのですが、いろいろ悩んだ末、撮影を続ける代わりに、モデル以外の仕事の可能性を同時に探っていこうと決めたのです」

もともと文章を書くのが好きだったというのもあり、ジャーナリズムの世界に興味を抱いたアンジェラさんは、興味のある分野で文章を書いてみるほか、積極的に人と会って話をすることを心がけるようになりました。

「とにかく暇があれば、いろいろな人と会って話していました。そういう中で、イタリアの『L'OFFICIEL(ロフィシェル)』誌の編集長だったジャンルカ(・カンターロ)と出会い、アンダーカバーのジョニオさん(編集部注:デザイナーの高橋盾さんの愛称)の取材を担当する機会をいただいたんです。ほかにも、『ロフィシェル』では、中田英寿さんやフラワーアーティストの東信さん、フランスの新しい雑誌のためにヒステリックグラマーのノブさん(編集部注:北村信彦さん)にインタビューをさせていただいたりと、今までのキャリアのお陰で繋がりのある方々に取材することも多く、主に英語で記事を書く機会を得るようになりました。文章だけで勝負したいという気持ちがあったので、基本的にはモデルとして知られていない海外の雑誌を相手に、顔を出さずにやっていました」

◾️仕事をきっかけにアートの世界に足を踏み入れる

ジャーナリストとしてアンジェラさんが心がけていたことは、モデル時代と同様に準備と勉強でした。そこから必然的にアートの世界に導かれていきます。

「私はプロのジャーナリストではないという意識が強かったので、とにかく相手に失礼のないように、可能な限りリサーチをして取材に臨むようにしていました。過去のインタビュー記事は見つかるもの全部に目を通して、例えばジョニオさんのようなデザイナーの取材なら過去のコレクションをすべて見直して、もうすでにどこかで聞かれている質問はしないように準備するのです。それでもインタビュー中に出てくるコンテンポラリーアーティストのことを、名前はわかっていてもそれ以上掘り下げていくほど作品については深く知らない、ということが多々あって、そのようにチャンスをミスしてしまうことが悔しくて...。どれだけその人物をリサーチしてもいつもそこが追いつかなくて、アートが大きな壁でした。それがきっかけとなり、もっと私が興味を抱く方々をよく知るには、とにかくコンテンポラリーアートを勉強しなくてはならないのだと思い、まずはとにかく展覧会に出かけるようにしました。

アートにはもともと興味があり、展覧会に行くのは好きでした。ただ、『素敵そう』『作風が好き』『このアーティストをもっと知りたい』と、自分が惹かれるものしか観てこなかったので、改めてアートにアプローチしようと思った時に、同じように続けていたら自分のことしか知れないな、と思いました。コンテンポラリーアートの全体の流れをより深く理解し、自分以外の視点を理解するには、自分がすぐに惹かれないものも観てみないと、と思ったのです。それからはあまり馴染みのなかったアーティストの展覧会や、いろいろなコンテンポラリーギャラリーに毎週行くようになりました。すると、あまり繋がりを感じられないとか、苦手なスタイルだと思っていたモノでも、キュレーターから話を聞いたり、その作家の作品を観続けているうちに本質的な何かが伝わってきて、すごく素敵に思えたり尊く感じたりすることがあり。そのプロセス、ゼロが1になる過程が素晴らしいことと感じ、それからどんどん、どっぷりと現代アートの世界にはまっていくようになりました」

◾️未知の分野のアート界での仕事

アートについての理解を深めるうちに、仕事として携わりたいという気持ちが大きくなったというアンジェラさん。未経験のアート界での仕事を得るにあたり、自らアートギャラリーにアプローチします。東京・谷中にあるギャラリー、SCAI THE BATHHOUSEを経て、香港のペロタンに転職。アーティストリエゾンと呼ばれる作家担当の部門で、アーティストのスタジオや展覧会などのプロジェクト、各国のアートフェアや美術館を訪れるために世界中を飛び回る生活を3年近く続けましたが、コロナ禍などをきっかけに東京への異動を願い出て、再び東京を拠点にした生活が始まりました。

「ディレクターという肩書きは、東京に戻って来てから、会社のニーズも変わり、気づいたら夢にも思っていなかったポジションを与えられていた、という状況です。

ギャラリーでの仕事は、アーティストが命をかけて作っている作品を扱っているので、ミスは許されません。そこに関われるだけでもありがたいのですが、時に慎重に、時に大胆にやらなくてはいけないこともあります。扱っているのが自分の作品ではないですし、いろいろな面で大きなプレッシャー、責任を感じます。展覧会を企画し、創り上げるサポートをして、ベストな方法(キュレーション、コミュニケーションなど)でギャラリーを訪れる人に作品を届け、伝えるのはもちろん、販売のことも考えなくてはいけません。

そのほかにも、アーティストを担当するリエゾンの仕事においては、その方のキャリアの全体像も見ていかなくてはなりません。キャリアカーブを考えた時に今後どのようにサポートしていくべきか、どのタイミングでどの美術館に働きかけるのがいいのか、そのためにはどうすればいいのか、などなど、運営と並行してさまざまなことに取り組んでいます」

◾️アートを理解するには? そして仕事としてどう伝えるか

「アートって突き詰めるとそのアーティストの魂の表現・表れで、彼らも命をかけて何かを伝えようとしています。それが抽象的なものである場合もあれば、ポリティカルな場合もあります。理解するには、やはり観続けること。作家それぞれのランゲージ(言語)は最初は全部がただの記号にしか見えないかもしれないですが、観続けていくとどんどん自然と心と体に入ってくるようになります。そしていろいろなアーティストを知れば知るほど、アート史の流れや繋がり、リファレンスやシンボリズムなどが理解できるようになります。

あとはアーティスト自身に会ったり話したりした時に感じるものから伝わってくるものもありますよね。コンテンポラリーアーティストは存命の方も多いので、絵画、彫刻、映像などといった作品での表現に加えて、その方々から直接発せられる言葉などのエネルギーや生き方から作品を感じることもできます。

アーティストが伝えたいことを人々に伝えるのを手伝う側として、私の現在の仕事では、とにかく作品、そのアーティスト自身ではなく作品を集中して観てほしいと思う方もいれば、このアーティストの作品については、初めて観る人にとっては何も情報がないと理解しづらいかもしれないから、プレスリリースや解説などでサポートしようということもあります。アーティストや作品によって異なります」


◾️アート業界への仕事に興味を抱く若い世代へ

「とにかくさまざまなアートに触れて、特に好きなものは重点的に観て、そしてできれば、世界が広がるので、英語やフランス語、スペイン語、イタリア語などの他の言語を積極的に使える環境に身を置いてみるといいと思います。そして実際に生で作品を観賞することが一番。自分自身にも言い聞かせていますが、それがとても大事で自分の中に体験としてしっかりと残ります。そして何より、人生を変えてくれるのです。

ただ、今すぐ、答えが見えてこないことも多々あります。でも、自分の感覚を信じることさえできれば、長いサイクルで作品を感じ取っていくことも可能なのです。その点、私は恵まれていて、両親が私の直感、興味、好奇心を信じて育ててくれたので、とことん自分が納得行くまで自分の惹かれるものを追求してきたのかもしれません」

すでに取り組んできた分野でステップアップしていたにも関わらず、アート界で仕事を得たことは、いい意味でプライドを捨てて新しい分野に挑戦した結果であり、それがアンジェラさんの強みにも思えます。

「逆に、私にとって自分に『プライド』を感じるのは、努力して学んでいる時。自分の世界が広がっていったり、新たにコミュニケーションを相手と取れたりした時にプライドを感じます。同じところに居続けることに関してはあまり興味もないし、かえって怖いと感じる自分が居ます。今までの人生でいろいろな出来事があって、その都度、どんどん変わっていかなければ、という気持ちがあったことが関係しているかもしれません。

また、旅に対してロマンを抱いていて、世界も宇宙も広いのに、ちっちゃなところで終わりたくないとも思っていました。せっかく生きているのだからいろいろと感じとりたい、知りたい、そして挑戦もしたい、と思い続けています」


探究を続けるアンジェラさんの人生の旅はまだまだ続きます。


<連載概要>
仕事も育児も自分のチョイスで世界を広げる旅
第1回:14歳の高校生からモデルへ|自分で人生を決めて動かした10代の日々
第2回:ゴッドマザーの影響とヨガで癒しと意義を見つけたロンドン時代
第3回:ジャーナリストから未知のアート界に飛び込み新たなキャリアを邁進(本記事)

       
  • バリー・マッギーの制作現場にて

  • 展覧会での作品説明も仕事の一部

  • バリー・マッギーLA展オープン前の最終チェック

          
  • 香港在住時に本格的に始めたサーフィン

  • サンフランシスコ出身の担当作家、バリー・マッギーの香港での制作現場。ローカル・アーティストのスタジオを期間限定で使わせてもらい、夜中に制作中。

  • ペロタンパリでのバリー・マッギー展覧会で、作品を説明しているところ。

  • ペロタンLAで開催されたバリー・マッギーの展覧会で最後の確認作業。最後の最後まで変更があるので、値付けや撮影などのフォローアップをします。

  • 22歳頃からやりたいと思っていたものの、モデル業などを理由に控えていたサーフィン。4年前に始め、いまやヨガと同じく人生に欠かせないもの。