渋幕から東大理Ⅰに進学。「目の前のことを楽しむ」が原動力に
「やってみたい」を力に変えて。自分らしく選んだ進路のかた
- 名前
- 早川薪
- お仕事
- 東京大学理科Ⅰ類1年生
- Info
- 取材・文/秋山藍乃
【「やってみたい」を力に変えて。自分らしく選んだ進路のかたち】
西町インターナショナルスクールにキンダーから通っていた薪さんは、小学校卒業後、中学受験を経て渋谷教育学園幕張中学校へ進学。現在は東京大学理科一類で学びながら、将来の進路を模索しています。
いわゆる"王道"とは少し異なる、インターナショナルスクールから日本の進学校への進学。その選択の背景には、「もっと日本の文化や学校生活を体験してみたい」という、ごく自然な思いがあったといいます。
大きく環境が変わる中でも、「やってみたい」という気持ちを大切にしながら、柔軟にチャレンジを続けてきた薪さん。中学受験から渋幕での学生生活、そして東大進学に至るまで、自らの進路をどう考え、歩んできたのかを振り返ってもらいました。
(後編)【渋幕から東大理Ⅰに進学。「目の前のことを楽しむ」が原動力に】
前編はこちら。【西町インターから渋谷幕張へ。好奇心と挑戦心で踏み出した一歩
】
中学受験を経て渋幕に進学したとき、最初は戸惑いもあったという薪さん。
「英語と数学は得意でしたが、他の教科は日本語でのアカデミックな学びに慣れていなかったので"定期テストの準備って何?"というところからのスタートでした。理科や社会など暗記が必要な科目は、中2、中3と徐々に勉強のコツを掴んでいった感じです」
インターでは経験のなかった"空気を読む"ようなルールや、同調圧力的な雰囲気にも戸惑う場面があったそうです。それでも、西町時代に自然だった"発言する"姿勢は手放さなかったといいます。
「中1の頃は、ひとりだけ手を挙げて発言していました(笑)。まわりと少し違うかもと感じることはあっても"自分らしくいたい"という気持ちのほうが強かったですね」
とはいえ、学校全体の雰囲気は自由で、先生方もとても熱心。部活では中高とサッカーを続け、友人にも恵まれて、日々を楽しめたと話します。
渋幕には、インター出身や帰国生向けの"英語の取り出し授業"も用意されており、通常とは別の少人数クラスで、ネイティブの先生とエッセイやディスカッションを通じて学ぶことができます。
「インターに近いスタイルで学べる場があってありがたかったです。英語力を維持できるだけでなく、文化的な背景も尊重される環境に安心感がありました」
高校2年生までは、朝から晩までサッカー漬けの日々。けれど次第に「ほかにもやりたいことがあるかもしれない」と思い始めたと言います。
「高2の夏に、ハーバード大学のサマープログラムに参加しました。世界中から高校生が集まっていて、すごく刺激的で。進路に悩んでいた時期だったので、新しい環境に身を置けてリフレッシュになりました」
さらに、2024年5月には高校3年生として、国際哲学オリンピックの日本代表に選ばれ、フィンランド・ヘルシンキで世界の高校生たちと哲学エッセイで競い合いました。
「哲学書の一節だけが提示されて、それをもとに自分で問いを立ててエッセイを書くんです。僕は"社会規範ってどうやってできるんだろう?"というテーマで書きました。入賞は逃しましたが、議論を通じて世界中の高校生と知的な時間を共有できたのは、すごく刺激的でした」
同じ年、英語ディベート全国大会でも優勝。
「問いに対して、自分の意見を英語でロジカルに説明する力が評価されたのはうれしかったですね。やっぱり、"考えたことを丁寧に人に伝える"という姿勢が、自分の強みなのかもしれないと感じました」
一時はアメリカやカナダの大学進学も真剣に検討したものの、日本の大学の自由度にも魅力を感じたそうです。
「東大は、入学後に専門を選べる"進学振分け制度"があるので、将来やりたいことがまだ決まっていない自分には合っていると思いました」
『東大以外ならどの大学のどの学部?』と考えてもピンと来なかったこともあり、最終的に東大一本での受験を決意します。
塾や予備校に頼らず、受験に挑んだ薪さん。学校で配られた教材や自分で買った参考書をフル活用し、1問1問ていねいに解きながら受験勉強を進めたといいます。
「クラスメイトのほとんどが難関大学を目指す環境は、渋幕という進学校ならではの大きな魅力。まわりに一緒に勉強を頑張る仲間がいたのは、とても心強かったです。分からないところがあれば、友人同士でお互いに教え合うこともありました」
また、数学については月2回の勉強会に参加していたそう。
「同期5人と一緒に、開成OBの方のお宅にお邪魔して食卓を囲み、模擬試験と同様の形式で数学の演習をしていました」
受験勉強のスケジュールも自分で管理し、自分のスタイルで受験勉強を進めていったそうです。自由な校風の中で、自律的に学ぶ姿勢が育まれていたことが伝わります。
現在は東京大学理科一類に在籍し、前期課程では数学や物理を中心に学びながら、選択科目で経済学の講義も受講中。将来は工学部か経済学部への進学を考えています。
「理系に強いこだわりがあるわけではなく"自分に合いそう"という感覚で選んでいます。経済の授業が面白くて、少しずつ興味が固まってきた気がします」
課外活動ではヨット部と投資サークル「瀧本ゼミ」に所属。それぞれ異なる世界で、新たな関心を見つけています。
「ヨット部は週末に神奈川で活動していて、海に出るのは純粋に楽しいです。仲間との距離もぐっと縮まります。また、投資サークルでは企業分析や投資の実践を通じて、ビジネスへの関心が強まりました。"こういうの、意外と好きかも"と気づけたのも貴重な経験です」
将来的には、イギリスへの1年間の交換留学にも関心があるそう。
「ヨーロッパを一人旅したいという夢があって、英語圏のイギリスには文化的な魅力も感じていました。交換留学では科目選択の自由度も高いので、現地の学生や文化に触れながら視野を広げたいです」
卒業後の進路はまだ明確ではないという薪さんですが、不確かさも前向きにとらえています。
「"こうなりたい"というはっきりした目標はありませんが、学内のゼミやセミナーの案内を見て、面白そうだと思ったら参加するようにしています」
投資サークルに入ったのも、そんな一歩のひとつ。そこで出会った先輩たちは、コンサルや投資銀行、企業のIRなど第一線で活躍する人ばかり。
「自分も将来、そういう道に進むかもしれない。まずは興味のあることを試してみながら、少しずつ方向性を見つけていければと思っています」
最後に、インター出身や帰国子女など、国際的なバックグラウンドを持つ後輩たちへのメッセージを尋ねました。
「英語力はすごく大きなアドバンテージです。大学受験でも得点源になりますし、入学後も英語の授業では成績を取りやすい。交換留学や国際交流のチャンスも多く、"英語ができるからこそ挑戦できること"は本当にたくさんあると思います」
自分の感覚を信じて進んできた軌跡が、いまの自信につながっている。そんなまっすぐな姿勢が、印象的でした。
〈連載概要〉
「やってみたい」を力に変えて。自分らしく選んだ進路のかたち
前編: 西町インターから渋谷幕張へ。好奇心と挑戦心で踏み出した一歩
後編: 渋幕から東大理Ⅰに進学。「目の前のことを楽しむ」が原動力に(本記事)