全寮制小学校がもたらす「自立」と「国際感覚」、「親子関係」の変化
「世界で生きる力を育てる」全寮制小学校という選択
- 名前
- 末松 弥奈子
- お仕事
- 学校法人神石高原学園 理事長
- Info
- 取材・文/小嶋美樹
- URL
- 神石インターナショナルスクール
【「世界で生きる力を育てる」全寮制小学校という選択】
グローバル教育やインターナショナルスクールへの関心の高まりに加え、ボーディングスクールという選択肢にも注目が集まる昨今。日本初の全寮制小学校として2020年4月、広島県神石高原町に開校した神石インターナショナルスクール(以下、JINIS)とは一体どんな学校なのでしょう?
今回も前回に引き続き、創立者であり、JINISを運営する学校法人神石高原学園の理事長である末松弥奈子さんにお話を伺っていきます。
(前回記事: 海外進学を見据えた日本の全寮制小学校、JINISのバイリンガル教育)
「JINISは、日本のみならずアジアでも初となる全寮制の小学校です。学校を創立するにあたり目指したのは、週末も寄宿舎で過ごす完全ボーディングスクール。小学生のうちから親元離れて暮らすことに対し、最初は心配される親御さんが多いのも事実です。しかし本校では、有資格者のハウスペアレンツが寮に常駐し、教師と共に親代わりとなって生徒たちを見守ります。プロの手によって自立が促されることで、子どもたちは生活面においても大きく成長を遂げるのです」(末松さん、以下同)
まずは規則正しい生活リズムが、その後、礼儀や食事マナーも日常生活のなかで身に付いていくため、長期休暇で帰宅した際の我が子の成長ぶりに驚く親御さんも多いそうです。
「親が"褒め役"に徹することができるのも、完全ボーディングスクールのメリットでしょう。私自身も、かつて息子をスイスのボーディングスクールに通わせていましたが、離れて暮ら
す息子が帰国するたびに、その成長には目を見張りました。『こんなこともできるようになったんだね』と、成長を認める言葉をたくさんかけてあげることができるようになったのは、私自身にとっても嬉しい副産物でした」
JINIS設立の背景には、こうした末松さんご自身の子育て経験が大きく影響しています。
「私は広島の出身ですが、当時はさまざまな葛藤を抱えながら東京で子育てをしていました。『周りのみんながやっているから』という理由で、受験も"すべきもの"として捉えてしまい、つねに焦りのようなものを感じていた気がします」
経営者としても多忙を極め、つねに時間に追われていた末松さんは当時、子育てに関して立ち止まって考える余裕もなかったそうです。
「ある日、ふと周囲に流され続けている自分に気が付いたのです。『子育てに関してじっくり考えるためには、いったん東京を離れてみるべきではないか』と、広島に戻ることも視野に入れていた中で、知人から海外のボーディングスクールという選択肢を教えてもらいました。検討を重ねた結果、息子を小学3年生からスイスのボーディングスクール『ル・ロゼ学院』に通わせる決断をしたのです」
最初は遠く離れて暮らす寂しさもあったものの、我が子のたしかな成長と手ごたえを実感。自身のこうした経験から、「教育をプロに任せる」という選択肢が、日本でもより前向きに捉えられるようになってほしいと考えるようになりました。
そこから生まれたのが、JINISだったそうです。広大な敷地内には、寮や校舎、体育館だけでなく、日本庭園や茶室、ファームも整備。生徒たちは、豊かな自然と安全が確保された環境のなか、毎朝7時に起床し、8時に登校。英語と日本語で学ぶイマージョン教育の授業を7コマ受けた後は、充実した課外活動にも取り組みます。
「スイスやイギリスのボーディングスクールにならい、放課後の時間をしっかり確保し、課外活動に充てています。内容は多岐におよぶのですが、乗馬やバレエ、空手やバスケットボールの他、ピアノやフルート、コーラスといった音楽活動も盛んです」
生徒たちの要望に応える形で活動の幅が広がっていったそうですが、こういった幅広い教養と経験は、今後、国際社会で活躍する際に強みとなることでしょう。
また、JINISは寮のファシリティも充実。リゾートホテルだった建物と敷地をリノベーションした施設には、広大な日本庭園や大浴場も完備。低学年のうちは入浴指導も行われる一方で、高学年になると将来の海外進学を見据え、個室のシャワーを使うルールに移行し、海外の生活環境への適応力も養います。
「自然豊かな立地を生かし、学内のファームでの野菜栽培や動物の世話など、体験型の授業も多彩です。週末プログラムでは、陶芸や座禅といった日本人としての教養を深める体験や、宿泊を伴う小旅行など、子どもたちの知的欲求を満たすさまざまな機会を提供しています」
現在、JINISの生徒は約9割が日本から、約1割が台湾、香港、アメリカなどからの留学生です。開校当初はコロナ禍の影響もあり、海外への発信は限定的でしたが、今年、IPC(International Primary Curriculum)の正式認証を取得。「日本の一条校とのダブルカリキュラムの学校」として世界に向けた発信を強化していく予定だそう。
ただ末松さんは、国籍にこだわらず、「ここで学んでみたい」と主体的に思う子供たちを、今後も積極的に受け入れていきたいと考えています。
「本校の入学試験は、基本的に個別対応です。入試前に必ずサマーキャンプや学校見学に参加いただき、お子さん自身に実際の環境を体験してもらいます。その上で『この学校で学びたい』という本人の意思が確認できたご家庭にのみ、入学いただきます。完全ボーディングスクールだからこそ、子どもが自ら意思決定をする経験を大切にしてほしいのです」
「小学受験や中学受験と同じように、本校のようなボーディングスクールも教育の選択肢のひとつとして、日本でもより広く知られるようになってほしい」と末松さんは話します。大切なのは、それぞれの家庭や子どもに合った選択ができる社会であること。日本の一条校でありながら、海外進学を当たり前の選択肢とするJINISの取り組みは、そうした新しい教育のあり方を示しているのかもしれません。
〈連載概要〉
第1回 海外進学を見据えた日本の全寮制小学校、JINISのバイリンガル教育
第2回 全寮制小学校がもたらす「自立」と「国際感覚」、「親子関係」の変化(本記事)