アート学習は海外の常識?知識を生きる力にするSTEAM 教育を解説!

Choice

海外ではすでに必須のSTEAM教育

私たちの生活が、これほどまでにはっきりと、テクノロジーに支えられた時代が、かつてあったでしょうか。いまや、学校の授業も仕事の会議もオンライン。新型コロナウィルスの流行が収まったとしても、私たちのライフスタイルの転換が止まることはなさそうです。テクノロジーの重要性がますます高まる時代、世界の教育は「STEM教育/STEAM教育」(ステム教育/スティーム教育)へとシフトしています。

2020年度から、日本の小学校でもプログラミングや英語が「教科」として採用されましたが、これもSTEAM教育の一貫。STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4分野の頭文字で、2000年、米国国立科学財団のジュディス・ラマリー教授が提案しました。これからの数十年で、地球上の仕事の半分以上はAIに取って代わられると言われています。しかし、AIに使われる人間に比べ、AIを"作り、活かし、価値を見出す"人材が圧倒的に足りません。そこで、理系の知識を実社会に活用できる人材の創出を目指して始まったのが、STEM教育なのです。その後、実証実験を経て理系教育のみでは不十分なことが明らかとなり、2008年に「STEM」から「STE"A"M」に進化しました。加えられた「A」は、アート。なぜ、理数工学の知識の活用にアートが必要なのか。このアート学習こそが、これからの教育の鍵なのです。

STEAM教育は、2011年、当時のオバマ大統領がアメリカの国家戦略としたことで、先進諸国に広がりました。世界を変える人材には、知識を現実社会に活かす能力が必要です。「うちの子は、別に世界を変えなくても、幸せに暮らせればいい」と思っていた親たちにとっても、他人ごとではなくなりました。テクノロジーがさらに進化する次世代の社会では、それを使いこなす能力がなければ、好きな仕事につくこと、幸せな人生をデザインすることも難しくなるかもしれません。テクノロジーを使いこなすためには、表現力、自己肯定力、思考力、そしてコミュニケーショション能力が不可欠で、これらはアート学習で培われることがわかってきたのです。次回記事では、教育の最先端をいく米国シリコンバレーで、アート教育に力を入れている学校の実情をお送りします。

       
  • テクノロジーとアートを同時学習するSTEAM教育

  • 科学や技術はデザイン思考を通じて生きた知力に

  • アートを学ぶ子どもは教養科目の成績もアップ

          
  • 自由に学べるアートは子どもたちが大好きな時間

  • アート学習で子どもの自信が育つ

  • 演劇教育が有名なパインウッド・スクールの発表会

  • STEAM教育における「アート」の概念は、美術だけではありません。ファインアーツ(美術)、音楽芸術、体育・ダンス表現・ドラマ表現芸術、手工芸術、さらには言語とリベラルアーツ(社会学、教育学、政治、哲学、心理学)を含みます(注1)。

  • 人が自然や人工の環境に科学や工学の技術で手を加え、より快適に過ごしたり、問題解決をしたりする行為は、すべて「デザイン活動」。科学や数学、技術の知識は、デザイン思考を通じてはじめて、問題解決につなげることができます。そのために必要な力をアート学習で培うのです。

  • アート学習は、言語能力、読解力、数学能力、分析力、問題解決力、思考力などを高めます。グッゲンハイム美術館の調査では、アートを学ぶことで言語能力や説明能力の向上(注2)、メリーランド州の公立校の研究では、数学、科学、社会、読書の能力向上が認められました(注3)。

  • なぜ、アート学習は効果的なのでしょう。まず、小さな子どもにとって、想像力を解き放ってクリエイティブに表現するアートは、単純に楽しいのです。楽しんで取り組むことで、自主性が培われます。そして、社会学や哲学などとの同時学習が、数学や科学の知識を実生活と関連付けます。

  • もう1つ、アート教育の大きな目標は、自信を育てること。正解のないアートは、教養科目や運動が苦手な子どもの拠り所にもなります。先生や友達に褒められれば自己肯定感が高まりますし、努力して1つの作品を作り上げたという結果も、自信に繋がります。

  • 特に注目したいのは、「パフォーミングアーツ」と呼ばれる演劇やダンスなどの舞台芸術。アメリカやイギリスでは、小学校低学年から演劇が必修科目になっています。次回は、パフォーミングアーツで有名な学校、パインウッド・スクールに通うエリカさんの学校生活を紹介します。

  • (注1)「Society5.0を支えるSTEAM/STREAM教育の推進に向けた 小学校教育課程の教科等構成の在り方と学習指導形態」山 崎 貞 登 ・松 田 孝 ・二 宮 裕 之 ・久保田 善 彦 ・ 磯 部 征 尊 ・川原田 康 文 ・大 森 康 正 ・上 野 朝 大(2020)
    (注2) Guggenheim Study Suggests Arts Education Benefits Literacy Skills, The New York Times, 2006年7月27日
    (注3) Study Shows Arts Education Helps Learning Process, CBS Baltimore, 2011年5月8日

    • line