奨学金、国際色、圧倒的な勉強量。ハンガリー医大生のリアルライフ

スポーツ一筋からハンガリー医大へ。現役留学生の挑戦ストー
- 名前
- 飯田優気
- お仕事
- ハンガリー国立セゲド大学3年生
- Info
- 取材・文/秋山藍乃
- URL
- Instagram/ @yuki_ryugaku_hu
【スポーツ一筋からハンガリー医大へ。現役留学生の挑戦ストーリー】
大学まではスポーツ一筋。社会人として働く中で、自分の人生を本気で見つめ直し、医学の道へと舵を切った飯田優気さん。選んだのは、日本ではなく"ハンガリーの医学部"という新たな世界への扉でした。
試験期間には1日13時間以上勉強に没頭しながら、SNSでハンガリー留学情報をこまめに発信し、時には留学サポートも行う超多忙な医学生ライフ。それでも常に楽しそうな飯田さんからは、ポジティブなエネルギーがあふれています。
「やりたいことに夢中になる。その環境を自分で選び、楽しむ」
飯田さんのまっすぐな言葉は、親として子どもの未来を信じ、そっと背中を押す勇気を与えてくれます。
【前編:奨学金、国際色、圧倒的な勉強量----ハンガリー医大生のリアルライフ】
──なぜ、医師を志したときに、国内ではなくハンガリーという国を選ばれたのでしょうか?進路を決められた経緯について教えてください。
「僕が医学部を目指したのは、社会人1年目のときでした。日本の医学部は入試のハードルがとても高く、準備に何年もかかってしまいます。一方、ハンガリーは医学部入学の間口が比較的広いという点に大きな魅力を感じました。もちろん、入ってからの勉強は大変ですが、それは努力次第で乗り越えられると思ったんです。
もう一つの理由は、奨学金制度です。成績次第で、学費や生活費など、6年間で合計2000万円弱のサポートが受けられ、しかも返済不要。経済的な負担がかなり軽減されることになります。
あとは、国際性の豊かさです。世界中から学生が集まってくる環境で学ぶことで、視野を広げたいという思いがありました。実際に、20〜30カ国の学生が集まっているので、そういった環境にも価値を感じました」
──奨学金を得るための試験があるのですか?
「奨学金を得る方法は2パターンあります。ひとつは、"予備コース"と呼ばれる、大学が運営するファンデーションプログラムに入って、そこの成績が優秀であれば、そのまま奨学金を得て大学に進学できるというもの。もうひとつは、1年生から直接入学する方法で、この場合は入試の成績が評価の対象になります」
──留学に向けては、どんな準備が必要なのですか。
「まず、語学の準備は必須です。ハンガリーの医学部は英語で授業を受けるため、TOEFLやIELTSなど、語学力を証明するスコアが求められます。僕はIELTSの勉強をかなり集中してやりました。
それと、やはり理系の基礎的な学力も必要なので、生物や化学の勉強も並行してやっていました。ただ、生活面の準備に関してはほとんどしていなくて......。僕は比較的どこでも順応できるタイプなので、『行ってからなんとかなるだろう』というスタンスでしたね」
──もともと、医学の道に興味があったのでしょうか?
「実は、それまで医学部に行こうなんて全く考えていなかったんです。大学卒業までの自分にとって"いい人生"とは、いい会社に就職して、安定した生活を送ることだと思っていました。なので、卒業後は商社に就職して営業職として働いていたんです。
でも、いざ社会人になってみると、『この仕事をあと何十年も続けるのか?』とふと思ってしまって。仕事に情熱を持てない自分に気付いたんです。特に営業の仕事は、時に本意ではない提案をしなければならない場面もあって、『本当にこれが自分のやりたいことなのか?』と疑問が募っていきました」
──では、医学の道を志した直接のきっかけは何でしょう?
「ネガティブな感情がきっかけだったかもしれません。仕事にやりがいを感じられず、このまま人生が進んでしまうのが怖かった。そんな中で、自分が本当に情熱を持てる分野を考えたときに浮かんだのが"スポーツ"と"医療"でした。
僕は高校まで野球一筋で、甲子園を本気で目指していました。その夢は叶わなかったけれど、それでも長年スポーツに打ち込んできた経験から、『アスリートを支える仕事がしたい』と思うようになりました」
──ご自身の経験から、スポーツ医学という分野に惹かれたのですね。
「そうですね。実は内科医である父もプロ野球選手の栄養指導を行っていて、間接的に医療の世界に触れる機会があったことも影響しています。そういった背景から、『どうせ学ぶなら、一番深く知れる医学の道に進もう』と決心しました」
──会社勤めをしながらの勉強はかなり大変だったのでは?
「かなり厳しかったですね。商社では朝8時から夜8時まで働いていましたが、その合間を縫って英語や理系科目の勉強をしていました。僕は、大学まではスポーツ一筋で、全くと言っていいほど勉強をしてこなかったタイプ。そんな自分が医師を目指すっていうのもまた面白いんじゃないか、なんていうワクワク感もありながら取り組んでいました」
──実際にハンガリーでの大学生活が始まって、日本の大学との違いを感じることはありましたか?
「やっぱり一番の違いは勉強量ですね。僕は日本でも大学生活を経験していますが、日本の大学って"人生の夏休み"と言われるように、授業にそこまで出なくてもなんとかなるし、テスト前だけ頑張れば単位が取れることも多いと思います。
でもこちらでは、みんな"将来やりたいこと"が明確で、そのために大学に通っているという印象があります。勉強に対する本気度がまったく違いますね」
──それはすごい......。医学部という専門性の高い分野だからこそ、というのもあるのでしょうね。
「そうですね。でもそれだけでなく、海外の学生って本当に意識が高いんです。将来について明確に語れる人が多くて、話していて刺激を受けます。日本では『とりあえず大学→就職』という流れが多いですけれど、こちらの学生は『何を学んで、どう生かしたいか』という目的がはっきりしていますね」
──現地ではどんな国籍の学生と学んでいるのですか?
「中東系やヨーロッパ諸国からの学生が多いですね。アジア圏だと韓国や日本から来ている学生もいます。あと、アメリカからの留学生も意外といますよ。アメリカは学費がすごく高いので、ハンガリーで学んでから本国に戻るのだそうです」
──学びの環境として、すごく国際色豊かなんですね。
「さまざまなバックグラウンドを持った学生と出会えることが、大きな財産になっていると思います。それぞれが独自の視点や勉強法を持っていて、日本では得難い刺激を与えてくれます。
日本人留学生も、高校卒業後すぐ留学した人だけでなく、僕のように社会人を経験してから来ている人も多く、なかには50代で入学された方もいました。
国籍や年齢問わず、互いに尊重し合いながら学べる環境に感謝しています」
──そうした中で、特に印象に残っているご学友はいますか?
「韓国出身のクラスメイトなんですが、彼はまさに"天才タイプ"。それでいてすごく謙虚で、学びに対する姿勢が素晴らしいんです。医学の内容を、暗記ではなくすべてストーリーとして理解するんですよ。だから知識が深くて応用力もある。
さらに、人のために行動する力もあって。誰かが困っていたら自然と手を差し伸べる。僕も彼から人間として多くのことを学ばせてもらいました」
──ハンガリーでの学生生活のなかで、特に大変だったことはありますか?
「一番は、試験期間の勉強ですね。僕は勉強そのものは嫌いじゃないし、楽しんでやれていますが、それでも試験期間中は1日13〜14時間机に向かうのが当たり前。量が本当にすごくて、やっぱりそこはしんどいなと思います」
──それはもう体力勝負でもありますね......。生活面ではいかがですか?
「生活面は、ほとんどストレスはないです。物価も安いし、治安も良くて、住みやすい国だと思います。多くの医学部生は一人暮らしを選んでいますが、家賃もそれほど高くないので、無理なく暮らせています。たまに日本食が恋しくなるぐらいですかね(笑)」
後編に続く。