スポーツ一筋の経験と両親の支えが育んだ、夢をまっすぐ貫く力

スポーツ一筋からハンガリー医大へ。現役留学生の挑戦ストー
- 名前
- 飯田優気
- お仕事
- ハンガリー国立セゲド大学3年生
- Info
- 取材・文/秋山藍乃
- URL
- Instagram/ @yuki_ryugaku_hu
大学まではスポーツ一筋。社会人として働く中で、自分の人生を本気で見つめ直し、医学の道へと舵を切った飯田優気さん。選んだのは、日本ではなく"ハンガリーの医学部"という新たな世界への扉でした
試験期間には1日13時間以上勉強に没頭しながら、SNSでハンガリー留学情報をこまめに発信し、時には留学サポートも行う超多忙な医学生ライフ。それでも常に楽しそうな飯田さんからは、ポジティブなエネルギーがあふれています。
「やりたいことに夢中になる。その環境を自分で選び、楽しむ」
飯田さんのまっすぐな言葉は、私たちに親として子どもの未来を信じ、そっと背中を押す勇気を与えてくれます。
【後編:スポーツ一筋の経験と両親の支えが育んだ、夢をまっすぐ貫く力】
──お話を伺っていると、新たな領域にどんどん挑戦していく飯田さんのエネルギーの高さに驚かされます。飯田さんの原体験を探っていきたいと思うのですが、どんな子ども時代だったのでしょうか。
「幼少期から高校までは、野球一色でした。付属大学に進学した後も、スポーツばかりしていましたね。勉強は、中学受験の直前だけ集中しましたが、それ以降は連日朝から夜までグラウンドに立ち、仲間と汗を流す毎日。父も熱血漢だったので、練習に打ち込める家庭環境にも恵まれていたと思います」
──お父さまは医師だと伺いましたが、医学の道に進むようにとは言われなかったのでしょうか。
「父も祖父も医師でしたが、父から『医者になれ』と言われたことは一度もありません。それよりも『自分の好きなことを、とことんやれ』というスタンスでしたね。
母は、熱血漢な父の裏で、どちらかというと寄り添ってくれるタイプ。僕たち三兄弟のことをずっと見守り、支えてくれる存在でした」
──応援してくれるご家族の存在が、今も飯田さんを支えているんですね。
「母の言葉で印象に残っているのは『あなたたちは、頑張れば何でもできる子なんだから』という一言。小さな頃から、そうやって自信を育ててもらったのは大きいと思います」
──スポーツと勉強の両立については、子育てをしていて難しいテーマの1つだと感じます。飯田さんの経験から、スポーツと勉強に挑戦する子どもたちにアドバイスはありますか?
「両立はできると信じています。僕は子どもの頃、言われた練習をこなすだけで"考える力"が足りませんでした。今は、『どうすれば速い球を投げられるか』、『怪我を防ぐには』など、スポーツと勉強を結びつけて考える時代だと思います。スポーツで培った感覚を学問に、学問で得た知識をスポーツに活かせることができれば、どちらか一方だけに集中している人よりも、きっと大きな成長ができると思います」
──最近は、中高生でスポーツ留学を選ぶ子どもも増えてきていますよね。そういった選択についてはどう思いますか?
「日本のスポーツ教育の"こうあるべき"というルートから抜け出し、多様な視点を得られる貴重な機会になると思います。人によって成功への道のりは違いますし、何が合うかも違う。だからこそ、さまざまな選手たちのトレーニング法やアプローチを見ながら、自分にとって最適なやり方を見つけるチャンスがあるという点でも、スポーツ留学はすごく価値のある選択肢だと思いますね」
──飯田さんのお話からは、進む道を自分で選び、大変な中でもそれをすごく楽しんでいらっしゃるのが伝わってきます。そうした"前向きさ"や"挑戦する力"は、どう育まれてきたと思いますか?
「僕は、自分の人生で何度か"どん底"を経験してきました。高校まで野球一筋で、甲子園を目指していましたが、最後の試合で夢が潰えて。社会人になっても、自分の選んだ仕事に疑問を抱いて......。
そういう"失敗"の経験が、自分の中ではすごく大きくて。『人生は一回きりなのに、楽しまないともったいない』と思うようになったんですよね。
もう1つは、スポーツを通じて培った"体力"と"粘り強さ"ですね。野球で培った『努力は報われる』という感覚が、自分の原動力になっていると思います」
──Instagramなどでの発信も精力的にされていますよね。勉強しながら、SNSも発信して、ものすごく時間の使い方が上手なんだなという印象があります。
「ありがとうございます。意識しているのは『無駄な時間を減らすこと』。今ってSNSを見ているだけであっという間に1時間くらい経ってしまいますよね。だから、日々"削れる時間"を意識して行動しています。
あとは、勉強の"質"を高めることも大切にしています。誰と勉強するか、どこでやるか、何を使うか──そういう環境を整えることで集中力も上がります」
──やりたいことや、将来のビジョンを描く力もすごいですね。ハンガリーの医学部を卒業した後は、日本で医師免許を取得して、さらにアメリカでも医師として働くことを目指していらっしゃるとか。
「最終的な目標は『アメリカでスポーツ整形外科医として働くこと』です。アスリートと一緒に"フィールドの最前線"で戦いたい。そのためには、日本とアメリカの両方で医師免許を取得する必要があります。
実は、最近仲間たちと一緒に、ハンガリーなどヨーロッパの医学部を目指す日本人学生向けに、受験対策や情報提供の活動も始めました。僕自身情報がなくて苦労したからこそ、次に続く人たちの役に立てたらと思っています」
──日本・欧州・アメリカ。3つの医師免許を取得するなんて、本当に大きな挑戦ですね。プレッシャーや不安はありませんか?
「失敗は、まったく怖くないですね。なぜなら『失敗から学ぶしかない』と思っているから。もちろん、うまくいかなければ『自分の力不足だった』と受け止めて、もう一度挑戦すればいい。
実際、僕が目指している道って、『誰も達成していない』というわけではなくて、『まだ多くの人がチャレンジしていないだけ』だと思っているんです。行動さえすれば、道は開けるはず。だから、やるだけですね」
──では、今後の国家試験のスケジュールについても教えていただけますか?
「まず、ハンガリーの医学部は"卒業=国家試験合格"となるので、卒業試験そのものが国家試験になります。アメリカの医師免許試験は3段階に分かれていて、4年生の終わりに"ステップ1"、5〜6年生で"ステップ2"を受験予定です。
アメリカで研修医になるには、この2つをクリアすればOKです。最後に、日本の医師国家試験は卒業後に"予備試験"と"本試験"があるので、卒業後に帰国して受験する予定です」
──かなりの長期戦ですね!
「そうですね。でも、僕のように"スポーツしかやってこなかったタイプ"でも実現できるということを示すことで、後に続く人たちの道しるべになれるんじゃないかと思っています。挑戦することを迷っている人たちの背中を押してあげることができたら嬉しいです」
──最後に、子どもの可能性を応援したいと考えている保護者の方やこれから進路を考える子どもたちに、何かメッセージをいただけますか?
「子どもが夢中になれるものを、親としてぜひ見つけてあげてください。そして『自分で選ぶ』という経験をたくさんさせてほしいです。そのうえで、選んだことに責任と覚悟を持たせて、全力で応援してあげる。親が信じてくれることで、子どもは本当に強くなれます。
そして、子どもたちに対しては、海外に出ることをぜひオススメしたいです。英語を話せることで世界が広がり、出会える人の数が何倍にもなる。僕は今、それを心の底から実感しています」
「夢は描ける人のもとにしか近づいてこない」
そんな言葉がふと浮かぶような、飯田さんのまっすぐで力強い言葉の数々でした。
子どもが進む未来の形はひとつではなく、無限にある。
その可能性を信じる親のまなざしが、子どもたちを大きく羽ばたかせることを、あらためて感じることができるインタビューでした。