私がフランスで「インター」ならぬ「バイリンガル校」を選んだ理由

Choice

海外移住&教育のリアル①パリ編

名前
藤原淳/June FUJIWARA
家族
フランス人の旦那、11歳の娘
所在地
フランス・パリ
お仕事
著作家
URL
June Fujiwara | 藤原淳 lit.link (リットリンク)
URL1
Instagram @junettejapon

子どもの未来を想うとき、選択肢は日本国内だけにとどまりません。グローバル化が進む今、世界の教育はどのような現在地にあるのでしょうか。
本連載では、シンガポールパリマレーシアカナダなど、世界各地で子育てを経験したファミリーによる「リアルな教育事情」をバトン形式でお届けします。
学校選びのこだわりや現地に通わせて初めて見えた理想と現実、そして次なる進路への決断まで。国や文化は違えども、そこにあるのは家族が真剣に子どもの学びをデザインした等身大のストーリーです。
わが子に合う教育のカタチとは?世界を巡る家族の足跡から、これからの子育てのヒントを見つけてみてください。

==========================


海外移住&教育のリアル②パリ編】
【vol.1:私がフランスで「インター」ならぬ「バイリンガル教育」を選んだ理由】

はじめまして、藤原淳です。
東京で生まれ育ち、現在はパリで12歳になる日仏ハーフの娘を育てています。
かつてはルイ・ヴィトン・パリ本社で広報ディレクターとして働いていましたが、現在は日本・フランス・イギリスを行き来した自身の経験をもとに、異なる文化や思想の狭間で感じることを言葉に紡ぐ日々を送っています。
著書に『パリジェンヌはすっぴんがお好き』などがありますが、今回は、我が家の少し風変わりな教育環境と、そこで暮らす娘の姿についてお話しさせてください。


バカンス中の宿題が少ないことで有名なフランスですが、娘の春休みの課題は「本を二冊読むこと」だけでした。
けれども、そのうち一冊はフランス語、もう一冊は英語。
どちらも、とても11歳児向けとは思えないほど分厚い本です。
パリで生まれ育った娘に対して、私が幼少期から特に力を入れてきたのは、実は「日本語教育」ではなく「英語教育」でした。
私自身、幼少期をイギリスで過ごし、日本帰国後もインターナショナルスクールに通っていた経験があります。
だからこそ、「英語を話せる」ということは、単に語学力を得ることではなく、「世界が広がる」「将来の可能性が増える」という感覚があったのです。

一方で、フランスで育つ娘を「英語だけ」の環境に置くことには、どこか不安もありました。
言語だけでなく、アイデンティティーはどう育つのだろう。
フランス社会との接続はどうなるのだろう、と。
実際、パリのインターナショナルスクールでは、生徒も教師も入れ替わりが激しく、「一時的なコミュニティー」のように感じることも少なくありません。
もちろん、それが魅力でもあるのですが、幼い娘にとって、「自分がどこに属しているのか」という感覚も同じくらい大切なのではないか、と私は感じていました。

そんな時に出会ったのが、 École Jeannine Manuel(エコール・ジャニーヌ・マニュエル、通称EJM)という学校でした。
80カ国以上の子どもたちが通う、フランスでも珍しい「バイリンガル校」です。
3歳から18歳までの子どもたちが学ぶ、幼小中高一貫校でもあります。

ここで私が興味深いと感じたのは、この学校が単なる「英語教育」を目的としていない、という点でした。
EJMは、第二次世界大戦後の1952年に創立されました。
創設者のジャニーヌ・マニュエル女史は、戦時中ロンドンでレジスタンス活動に参加し、戦後、「無知から生まれる恐れこそが、国や文化同士の対立を生む」と考えるようになったそうです。
だからこそ、この学校には、「複数の言語を学ぶ」こと以上に、「異なる価値観を理解する」という思想が根付いています。
授業はフランス語と英語が半々。
しかし土台にあるのは、あくまでフランス教育です。
幼い頃はまずフランス語で読み書きを徹底的に学び、その基礎が身についてから、徐々に二言語で学ぶ環境へ移行していきます。

現在11歳の娘は、歴史と科学を英語で、算数と地理をフランス語で学んでいます。
さらに中国語も履修しており、来年からはイタリア語も始まります。
けれども本人は、「今どの言語を使っているか」を、あまり意識していません。
この学校が教えようとしているのは、この地球には「全く異なった考え方」が存在すること、そして理解し合うためには「相手の立場に立ってみること」、「対話すること」が何よりも大事だ、ということだと思います。
言語はあくまでツールです。
でも、ツールが増えると、見える世界も増える。
例えばフランスでは、小さな頃から「あなたはどう思う?」と問いかけられます。
正解を当てること以上に、自分の意見を持つことが重視される文化です。
一方、日本語には、日本語ならではの繊細な感情表現や、「察する」感覚があります。
フランス語で友達と遊び、英語で発表し、日本語で私に甘えてくる娘。
私は今、日本語、フランス語、英語、そのどれか一つだけでは、彼女の世界は完成しないのだと感じています。

バイリンガル教育とは、単に言語を増やすことではない。
子どもの中に、「世界観」を増やしていくことなのかもしれません。


〈連載概要〉海外移住&教育のリアル
①シンガポール編
第1回: インターナショナルスクール選びのラプソディ。わが家の選択の理由 (2026.05.28)
第2回: いざ入学!子どもたちがどっぷり浸かったSASでの学校生活 (2026.06.09)
第3回: 変化を恐れず、自分らしく。シンガポールでの教育と未来へのステップ

②パリ編
第1回: 私がフランスで「インター」ならぬ「バイリンガル校」を選んだ理由(本記事)
第2回: 「正解」よりも「考える力」をフランスの教育が重視する本当の理由
第3回: 海外で子育てをする私が日本語以上に娘に伝えたい「日本人らしさ」

       
  • 今年の春休みの宿題

  • まずはフランス語を徹底的に

  • 2026年6月現在12歳の娘

          
  • 提示されたリストから英語の本、そしてフランス語の本を選び、両方を読むこと。日本のように感想文を書かせたりということはありませんが、後日授業で取り上げられるそうです。

  • バイリンガル校とは言っても、幼少の頃はまず徹底的にフランス語を叩き込まれます。フランス語の読み書きを習得してから、徐々に授業はフランス語、英語半々に移行。それまではレベルに合わせて音楽やアート、会話を通じて英語と触れる場を設けます。

  • バイリンガル校における科学の授業は英語で行われます。本人は英語なのか、フランス語なのか、あまり意識せずに習得しているようです。