日本の教育と現代社会の不安をぬぐうために 親に必要な心構え

Choice

日豪を行き来する働く母の視点

名前
小島慶子 / Keiko Kojima
お仕事
エッセイスト、タレント、東京大学大学院情報学環客員研究員、昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員、NPO法人キッズドアアドバイザー
Info
取材・文/須賀美季    プロフィール写真/鈴木愛子
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Twitter: @account_kkojima
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Instagram:keiko_kojima_
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公式サイト:アップルクロス

教育移住で二拠点生活。小島慶子さんが考える、これからのリアルな子育て③】

アナウンサーを経て、現在はタレント、エッセイストとして活躍する小島慶子さん。彼女の真っすぐな子育て感や、奥深くまで掘り下げるママの視点、社会問題にまで鋭いメスを突きつけるその姿勢は、多くの子育て世代の生き方に影響を与えています。8年前に、思い切って実現したオーストラリアへの教育移住のこと、そして現在も続く二拠点生活のなかで見えてきたこと、さらにこれからの子育てにまつわる思いを聞きました。

(こちらは第3回の記事です。第1回第2回こちらから)


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新しい家族の生活スタイルのなかで、これからの教育のありかたについては、小島さんご自身はどういうふうにお考えですか。

――子育てをする上で、日本は収縮していく国という実感がありました。これからグローバルに成長していく国ではないのかなと。同質性が高くて、どちらかというと内向きな社会です。多様性と包摂性に関しても、推進すると言っているわりに、実態はかなり後ろ向きの社会ですね。

私は、これからの若い人たちは、国内だけでは食べていけなくなるだろうと危惧しています。国内で就職するにしてももちろん英語ができなくてはいけないし、グローバルな人材と一緒に働くわけですよね。雇用も私達のときみたいな終身雇用から、ジョブ型に移行していくから転職も当たり前だし、どこかに入って一生安泰ではなくなる。そういうことを考えると、日本という狭い労働市場でしか働けない人というのはこれからは不利だと思うんです。より広い世界で仕事を見つけられるような力を与えてあげる方が親切だなと思っていたんですね。何かあっても世界のどこかで生き延びられる力を与えてあげたいと。

日本でも今はお金さえ積めば、英国のハロウ安比校などもありますし、IB(国際バカロレア)という選択肢もあります。ただ、そこには限られた階層の人しか通っていない。つまりその点での多様性に欠けるんです。大枚はたいて、休みごとに海外留学に出すとかインターに入れてしまうのも手ですけど、だったらもう最初から英語圏で育ててしまった方が早くないか?と、思いました。同じお金をかけるんだったら、向こうに住んじゃうっていう方がいいかもしれないなと、考えたんです。

家族が離れ離れになることに関しては、もちろん不安もありましたけれども、うちは家族4人が仲が良かったので、離れても大丈夫じゃないかと。そこは夫と子どもとの関係が良かったり、家事もする夫で、子育てのパートナーとしてすごく信頼しているので、それがあったから夫と息子たちだけで向こうに暮らすっていうことも多分できるだろうとなったんです。


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改めて小島さんならではの家族の幸福論、そしてオリジナルの子育てを見つけられたととても良い部分を感じますが、危機感のようなマイナスだと感じる部分もあったりしたのでしょうか。


――日本の中で良い学校に入れても、日本ではこれから食えなくなるかもしれないっていう状況に今なってきているので、もう外で生きていくしかないっていうことでもあると思うんです。今まではなんとなく「海外での教育」って、日本の良い教育よりもさらに良い教育をオプションでっていう感覚だったのでしょうが、私はもうそうではないと思っているんです。私は、自分の子どもが"日本社会の勝ち組"に入れなかったときのことを、ずっと考えて子育てをしてきました。

日本の勝ち組に入れなくても生き延びるためには、日本よりも広い場所を自分の可能性を探せるエリアとして想定できるようにする他ない。何かあっても世界のどこかでは生きていける、と思えるように。より贅沢な教育とか、エクスクルーシブな教育をさせたくてこの形にたどり着いたのではないんです。もっと危機感があるというか、世界のどこでも生き延びられる子どもにしよう、という思いからなんです。狭い日本の中でしか生きる場所を探せないのはリスクが高い、という感覚だったのですね。

実はお隣の韓国では1997年の通貨危機の後、グローバルなマーケットをターゲットにして成長していかないと国が持たないという意識が強まったそうです。

その時代にすごく英語教育熱が高まり、教育の格差が広がっていきました。韓国社会では、生まれたときからソウルで育って良い学校に入って財閥系の企業に就職する、というごく限られた成功の道しかない。そこからこぼれ落ちたら負け組。競争が厳しいなかで、子どもに英語を取得させて子どもを韓国以外でも生きていける人にしよう、あるいは留学先から韓国に戻ってきたときに、財閥系が採用してくれるような人材にしようという教育の流れができたそうです。

そんなときに、"キロギアッパ(雁のお父さん)"と呼ばれるお父さんの存在が話題になりました。韓国で一生懸命働きながら幼い子どもと妻を海外留学に送り出し、たまに海外に会いに行く。お父さんは国に残り死ぬほど働いて送金するわけですけれど、それで孤独になって自殺する人が出たり借金を抱える人がいたりと、社会問題になっていて、それでも今もずっとその問題は続いています。

そして近い将来、日本も多分そうなります。私は自分がその最初の一羽だと思うことがあります。とにかく、子ども達を食べていける人にするために、仕送りをするという生活ですから。


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日本も韓国も、まだまだ学歴主義だというのは、その背景にすごく強い既得権益を持っている方々が行かせる学校というのがあって、出口は同じで。限られた人たちのための教育のような感覚がありますね。やっぱりそれでは私達は生きていけないわけですね。

――生まれた時からその特権の中にいる人はいいと思います。永遠にその中にいればいいのだから。でも、そこに入れない人が昔みたいにそこを目指して頑張ったからといって、もう成り上がれるものではありません。格差社会ってそういうことです。それに、日本の有名校に下から通っています、っていうブランドも、所詮国内でしか通用しません。子どもにプリント50枚無理矢理やらせて、一生懸命そのソサエティに送り込んだら安泰ですっていう時代は、もう終わりです。

もしこれを読んでいる人が、子供を日本の"選ばれた人たちの世界"に入れることを目指しているなら、一度冷静になってみてほしいです。そこに食い込むことを目指すよりも、そうじゃないもっと広い世界のどこかで子どもが生き延びられる方法を探すほうが、同じお金をかけるなら合理的だと思います。


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小島さんが家族と住んでいらっしゃったような東京の都心に暮らしていると、それが見えないことのほうが多いですよね。情報に埋もれて、何も見えない中で頑張ってしまっている人は、どうすればよいのでしょうか。

――親の視野を広げることが、すごく良いと思います。私はラッキーなことにこういう仕事をしているので色んな人に会うんですが、最初自分はマスコミの人間だから時代の最先端だとか思っていたけれど、それはまったく違うんだってことがわかってきて。子育てや友人との縁から、仕事以外の場所でいろんな人と会って、視野を広げる中で学んだことがたくさんあります。ある時、私立一貫で幼稚園から大学まで育った放送局の社員に聞いてみたんですよ。「クラスに障害を持った子とか、貧困家庭の子とか、ひとり親家庭の子とかいた?」って。そしたら「あ〜!いませんでした〜」って答えが返ってきた。そういう人が報道の仕事をしているのは、なかなか衝撃ではありました。

「ノブレスオブリージュ」じゃないですけれど、教育にお金をかけられる家であればあるほど、いろんな人と一緒に生きていくという現実を、子どもに教えてあげてほしいなと思うんです。そのために、まず親が視野を広げて欲しい。親自身も、なるべく普段接点のない人、自分が育ってきたのとは全然違う環境で育っている人と話す機会を積極的に持ってほしいなと思います。


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日本で子育てをしている家族が、具体的に自分たちの視野を広げられるような活動ってありますか?

――例えば、地域やNPOでボランティアをするのはいいですよね。コロナ禍のいまは、人と接する活動が難しいので、子どもと一緒に寄付をするのもいいと思います。寄付は、富の再分配です。この先、あなたの子どもはすごい格差社会のなかで生きていくわけですが、いわゆる"無敵の人"、つまり死んだっていいと思っているような人がいっぱいいる社会って本当に豊かでしょうか? 一度でも失敗したらそんなところまで追い込まれる社会に自分の子どもを送り出したくないですよね? 特権に恵まれた環境に生まれなくても、みんながそれなりに幸せに平和に生きていける社会にした方が、結果として自分の子どもだって幸せになれるわけです。

寄付をしようと親子で考えることもすごくいいですね。日本にはどういう社会課題があるのかを一緒に学ぶことができます。同じ子どもでも、貧困で苦しんでる子が7人に1人はいるんだよとか、親もいろんな社会課題に気づくことができます。自分のお小遣いをどんな支援活動に役立ててほしいのかを考える。お小遣いの中から100円でもいいから毎月寄付するとか、寄付の習慣をつけるのが良いと思います。きちんとした活動をしている寄付先を子どもと一緒に探すのは、親子一緒の良い社会勉強にもなりますから。


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幼少期とはまた違った、成長した子ども達との接点は、どのような感覚ですか。子ども達と離れているからこそ感じられることも、多いのではないですか。

――幼少期の子育てでは、ちっちゃい〜可愛い!と思いながら、複雑な会話がしたくて成長を待ち焦がれていた面もありますね。長男は大学2年生になって、インターンなどで大人との接点も増えてきているので、最近すごく会話が大人びてきて。彼はもう、したい仕事も決まっているので、大卒後に働きながら経験とお金を貯めたら大学院に通って修士号を取ろうと思っていると教えてくれました。下の子は今まさに受験勉強中ですけど、理系が得意のようで、彼なりに将来を考えて行きたい大学を目指してがんばっているようです。

そういうふうに自分と世の中の関係や、仕事のことを真剣に考えるようになった彼らに、私が繰り返し言うことは、「うちはオーストラリアに血縁ゼロ、職場の縁もゼロなんだよ。何もないところからのスタートなのだから、もともと祖父母の代からオーストラリアで暮らしている友達とは違うんだよ」ということ。マイノリティとして、生活を自分でゼロから作っていくってことを彼らは、移民第1世代としてやらなくてはならないというのがありますから。もしかしたら日本にそのままいたら、あそこまで大人びた感じにならなかったかもしれない。マイノリティになるってすごく大事なことで、マイノリティの体験をすることは、本を何十冊読むよりも深い学びがありますから。

もしあなたが今の暮らしで、社会の多数派・主流に属する恵まれた立場にいるならば、あえて自分が少数派・非主流になる場所に行ってみてください。英語が既にペラペラなら、英語が通じない国に行くとか、知り合いがまわりにたくさんいるなら、1人も知り合いがいないところで3ヶ月でもいいから暮らしてみるとか。実際にそういう立場になってみると、いろいろな人の気持ちが想像できるようになります。自分の死角にも気づくでしょう。ただ本で読んで知ったつもりになるのとは違う、深い学びが得られるだろうと思います。

〈小島慶子さんのインタビュー連載概要〉
教育移住で二拠点生活。小島慶子さんが考える、これからのリアルな子育て
第1回:家族と離れて二拠点生活 子どもを伸ばす教育のあり方を模索して
第2回:海外での学校選び 子どもの生きる力を強くする真の多様性とは
第3回:日本の教育と現代社会の不安をぬぐうため 親に必要な心構え(本記事)

       
  • タスマニア旅行

  • タスマニア旅行

  • パースにて

          
  • 2020年に、家族でタスマニア旅行に出かけました。フレシネ半島の山の上で記念写真。この時高3だった長男は私より背が高く、中3の次男は伸び盛でした。

  • こちらも、2020年のタスマニア島への家族旅行。ダブ湖という湖越しに美しいクレイドルマウンテンを撮影しようとしている、夫と息子たち。

  • 気持ちのよい日差しと、満開のジャカランダの木の下で。