東京を離れて軽井沢での子育て日記「森のくらし1月」

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子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし

名前
川上ミホ
家族
3人(4歳の女の子)
所在地
長野県軽井沢
お仕事
料理家、エッセイスト
URL1
川上ミホ オフィシャルHP
URL2
miho.kawakami.5 Instagram
URL3
miho.kawakami.works Instagram

子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし
冬がやって来ました。
短い夏を惜しみながら過ごし、萌えるような紅葉を楽しんだ後は、長い長い冬の始まりです。
軽井沢の気候区分は超がつく寒冷地。北海道・札幌と同じか少し寒い程で、新幹線であれば東京から1時間ほどの距離なのに別世界のような気温と景色に出会えます。

軽井沢での暮らしは、寒さとの向き合い方が違います。
東京の家は、マンションなので火気厳禁。電気式の床暖房とエアコンを使用。
けれど、夜はマイナス10度前後まで冷え込み、最高気温も零下という軽井沢では電気の暖房は非効率。薪や灯油のストーブ、ファンヒーターを活用することが一般的です。

当然、火の存在は子どもにとっても身近なもの。
わが家では、朝起きてストーブに火を入れるのは5歳の娘の役目です。もちろん火を扱う際は大人が見守りますが、彼女の一連の所作は落ち着いたもの。ストーブの準備をしたら、しっかりとした手つきでシュッとマッチをすり、火を燃焼筒へ。火が移ったことを確認してフッとマッチの火を吹き消し、手早くストーブの火扉を閉めます。


娘がマッチで火をつけるようになったのは、幼稚園の「ごはんの日」がきっかけでした。
彼女の幼稚園は小・中学校までの一貫校なのですが、軽井沢の広い森の中に位置していて幼稚園の子どもたちは基本的に1日中そして1年中を外の森の中で過ごします。当然、この極寒の冬も外。インナーの上にヒートテック、セーター、スキーウェア、足元はスノーブーツという重装備でも遊び始めて体が温まるまでや、休憩で立ち止まると、やはり寒い。お弁当も冷たく固まり、スープジャーもあまり意味をなしません。

そんな中始まった週1回の「ごはんの日」。
みんなで火を起こしごはんを炊いて食べるという、書いてしまえば20文字程のこと。
けれど、小枝を拾い、薪を組み、火をつける。米を研いで水加減し、火の強さを調節して、感覚をフル稼働して中の具合を想像しながら炊き上げるーーーーこの一連の動作を、子どもたちは話し合い試行錯誤して自分たちでやるのです。
教えてしまえば簡単かもしれないけれど、スタッフ(娘の学園では、子どもも大人もフラットな関係性を目指していて先生方をこう呼びます)は時折思考のヒントになるような質問を投げかけるだけで、基本的な教育姿勢はじっと見守ることに徹します。この「見守る」ことの大切さと難しさは、小さな子どもがいるor持ったことがある人なら、わかるはず。
初めての日は、9:30ころから始めて13:00過ぎまでかかったそう。それが、何度も何度も回を重ねて今では1時間ちょっとくらいで炊けるように。最終的には、保護者を招いて「おこめプットデー(お米+アウトプット+の日)」というイベントを企画して、私たちにもふるまってくれました。

当日、おいしそうにほっかほかの炊きたてごはんをほおばる子どもたちの姿に、成長をみて感動したのと同時に、子どもたちの力や可能性を信じて子どもたちに伴走してくれているスタッフへの尊敬と感謝の気持ちを新たにしたのでした。

「見守る」は「信じる」とイコール。
先回りも、余計な手出しも、口出しもせず、過度な励ましもせず、信じ、共感すること。いざという時の砦になってくれること。だから、子どもたちは自分たちで感じ、思考し、話し合い、協力し、やってみるのかもしれません。


そうして、自宅のストーブの火をつけたい!と申し出た娘をストーブ係に任命したわけですが、私の心配をよそに、彼女は楽しみながらも淡々と毎朝のその役割を果たしています。火をつけることの好奇心と自信と同時に、自分たちで試行錯誤し失敗した経験から火を扱うことの難しさや怖さも知っていて、だから、ふざけたり過度に怖がったりもしません。
まだほの暗い森の朝、周りをぼうっと照らす小さなストーブ。迷いのない彼女の姿は、日々自分ごととして取り組んできた積み重ねの証。子どもたちを見守ってくれるあたたかなまなざしを思い出しながら、今朝もその小さく燃える炎をまぶしく眺めるのです。


*屋外での火の取り扱いは、特に細心の注意が必要です。娘の学校では周りに燃えやすいものがない環境で万が一に備えて十分な水を用意した状態で火を焚きます。
また、森林で地べたで火を焚くことは、ツチクラゲという深刻な森林被害をもたらすキノコの活性化に繋がります(数100メートル先の木にも影響が出ることもあります)。必ず焚き火台などを使用するようにしましょう。
子どもたちのチャレンジを見守る大人は、最後の砦として安全のための知識と経験を身につける必要があります。そういう意味でも体力も気力も必要ですが、満ち足りたような子どもたちの表情は何にも代えがたいものだとも思います。

〈川上ミホさん連載〉
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし

       
  • お米プットデイの麦茶屋さん

  • よそうのも自分たちで

  • 炊きたてツヤツヤごはん

          
  • 空っぽ

  • 子どもたちが炊いたご飯を親たちに振舞ってくれるイベントがありました。

  • この日は園児たちがホスト役に。

  • ご飯は飯盒で炊きました。

  • 最高のご馳走です!