植物のたくましさを身をもって知る、大人も夢中な畑仕事
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし
- 名前
- 川上ミホ / Miho Kawakami
- 家族
- 3人(7歳の女の子)
- 所在地
- 長野県軽井沢
- お仕事
- 料理家、エッセイスト
- URL
- 川上ミホ オフィシャルHP
- URL1
- miho.kawakami.5
- URL2
- miho.kawakami.works
【子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし】
小諸で畑仕事をするようになって、もうすぐ丸1年。
今年の夏、私はひたすら草刈りに追われました。
集落から少し離れた場所にぽつんとある畑で、お隣に時々お世話する方がいらっしゃる果樹の畑がひとつあるだけ。
自分たちが食べるだけの規模だし草の種でまわりに迷惑をかける心配も少ないからと、自然のままにのびのびと育てようと思って挑んだものの、いや本当に自然のチカラってすごいし全然思い通りにならない!
背が高い草を刈った後、3日も空けると「日を遮っていた高い草がなくなったぞ、それ今がチャンスだ!」とばかりに低いところに甘んじていた(が故に刈られずに済んだ)違う種類の草たちがグンと伸びていたり、せっかく刈ったのに残った株から新芽を伸ばしてむしろ前よりボリュームが出ているのがいたり、まあ生存競争の激しいこと、それぞれの生き残りの戦略がユニークかつ強かなこと。
「へーっ」と感心しながらも、草の勢いがあまりに恐ろしいので2日と空けずに畑に足を運んではせっせと草を刈ったのでした。
ところが、今夏はまた特別な猛暑。日が昇れば気温はぐんぐんと上昇し、日当たりの良い私の畑は10:00をすぎる頃には35度超え。夢中になるあまりに熱中症になりました。1週間ほど足が遠のき、「野菜、草にやられてもうダメかな」と半ば諦め気味で向かった畑で見た光景は。。。
「あれ?みんな全然元気。。。」
そこには、ぼうぼうに伸びた草に囲まれながらも、むしろ馴染むように青々しく葉を広げる野菜たちの姿が。たまたまのビギナーズラックなのか環境が適していたからなのかはわからないけれど、むしろ丁寧に手入れをしていたトマトよりも、ちょっと支柱を立てたくらいで放置気味だったトマトの方が元気。その後も立派に実をつけ、この夏はトマトを一度も買わないほどの豊作でした。
娘も長靴をはいて、長袖長ズボンで畑に入ります。
一昨年お世話になっていた農園さんの美しい畑(無農薬ですがきちんと手入れされて美しいのです)と違ってワイルドな私の畑は、娘にとっては「怖い」と、分け入るのを躊躇することもありましたが、やがて「なんだかおもしろい」に変わっていきました。
もちろんいちばんの楽しみは収穫で、春の玉ねぎやニンニクにはじまり、そら豆にサヤエンドウ、キュウリにモロヘイヤ、なす、トマト、ほおずきなど自分たちで種をまいた野菜に、ウドや行者ニンニク、こぼれ種で出てきたシソに、前の持ち主のご夫婦が植えてくださった梅やブルーベリーなど、たくさんのものを収穫し、畑での野菜たちの姿にびっくりしたり、とれたての美味しさに感動したりしました。
ただ、毎回楽しそうにしているわけではなく、すぐに飽きてしまったり、大きな女郎蜘蛛に怖気付いて早く帰りたがったり、詳しく説明しようとしても途中から興味なさそうにしたり、こちらが「自然と同じように畑も彼女の心の成長にプラスになるといいな」と妄想した勝手な期待は裏切られることがあるのも事実で、「教育のために経験を押しつけてはいけない」と自分勝手な想いを反省することも度々ありました。
もともと畑仕事は私がやりたくてやりたくて始めたことなので、40もしばらく過ぎた私が子どものように色々なことに感動したり試行錯誤したり発見したりしながら夢中になって取り組んでいます。久しぶりに仕事以外で夢中になる楽しさや自分で発見することの感動を味わって、改めて没入体験のすごさを実感。子どもの遊びや学びも大切だけれど、大人がやってみるのも悪くありませんね。
私の姿は彼女にはどう映っているのかしら。「ママは畑が好きだね」と言ってくれているので、とりあえず「好きなこと、自分がやりたいことをやる」を実行している姿は伝わっているのかな。娘にもこの感覚と楽しさ、知って欲しいな。いや、普段の遊びの様子を見ているともう既にやっているのかもしれないな、なんて、鼻をふくらませては、直後に「いやいや、押し付けたりなんでも教育に結びつけるのはダメ」と自分を戒めています。
〈川上ミホさん連載〉
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし