絵本の部屋3 大好きな絵本作家さんから受け取ったもの

Choice

海のある町でのびのびと暮らす、クリエイター夫婦の子育て

名前
ヨシタケシンスケ & 吉竹祐子
家族
中2と小3の男の子をもつ、4人家族
所在地
神奈川県
お仕事
絵本作家(夫)、クリエイター(妻)
URL
くりひょうたん。by吉竹祐子

ヨシタケシンスケ邸〈絵本の部屋〉から、家族の思い出が詰まったおもしろ蔵書をご紹介。妻の祐子さんが綴ります】

今回は、忘れられない思い出の絵本について書かせていただこうと思います。

長男は小さい頃、とにかくトーマスが大好きでした。そんな息子とトーマスの映画を観に行った帰り、横浜で開催されていた柳原良平さんの個展に立ち寄りました。会場には、魅力あふれる柳原さんの作品がたくさん展示してある中、息子は、それらの作品にまったく見向きもせず、映画館で買ってもらったトーマスのパンフレットに見入っていました。

おかげで、私と夫はゆっくり鑑賞することができたのですが、ふと気づくと、どこかのおじいちゃんが息子のパンフレットを眺めながら「おっ! やえもんだね! 汽車が好きなんだね。おじさんちの子も、汽車が大好きだったんだよ」と話しかけてくれていました。さらにおじいちゃんは、奥からお菓子を持ってきて、息子にクッキーを2枚渡してくれました。作品を見終わった私たちは、クッキーのお礼を言って、会場を後にしました。すると夫が「あの人、柳原さんだったよね」と。ご本人に会えただけでも嬉しかったのに、息子にクッキーまでいただき、なんという贅沢なことなんでしょう。

その2年くらい後、また同じ会場で柳原さんの個展が開催されました。前回のこともあったので私は、親子の愛読絵本でもあった『かお かお どんなかお』の絵本をカバンにしのばせ、会場に向かいました。この絵本は、長男も次男も大好きで、おこったかおや、かなしいかおをまねたりしながら、寝る前に毎日読んでいました。残念ながらこの日は、ご本人はいらっしゃらなかったのですが、会場にいらした方にサインをお願いすることは可能なのか聞いてみたところ、快く「絵本を預かって後日郵送させてください」と、おっしゃってくださったのです。

それから何日か経った後、この絵本が自宅に届きました。中には長男と次男の名前と共に、ご本人の絵とサインが描かれていました。すごくうれしかったです。

そして数年後、夫が絵本作家としてデビュー。残念なことに柳原さんは、その間に他界されてしまいました。もし、お元気だったならば、同じ世界に入った夫の絵本をお渡ししつつ、あの日のお礼を言いたかったです。そんなわけでこのサイン本は、我が家の家宝となり、あの日の思い出と共にとても大切な一冊となりました。

〈連載概要〉ヨシタケシンスケ邸のおもしろ蔵書の数々を、妻の祐子さんが心温まる子育てエピソードと共に綴る、その他記事はこちらより
ヨシタケシンスケ邸絵本の部屋

       
  • 切り紙の絵本

  • 柳原良平さんのサイン

  • 『かお かお どんなかお』

          
  • 『かお かお どんなかお』の絵はすべて切り紙で作られていて、印刷物と原画では、また違う表情が見られます。

  • このサインをお送り頂いた翌年、2015年8月に柳原さんは亡くなられました。あの日の思い出は、これからもずっと忘れません。

  • わらったかお、おこったかお、ないたかお、ねむったかお、、、。さまざまな顔を見せてくれる表情の絵本は、赤ちゃんから幼児まで夢中にさせてくれる。
    『かお かお どんなかお』柳原良平 著/ごぐま社 刊