絵本の部屋7 "ゆきのひ"の少年が、世界に残してくれたもの

Choice

海のある町でのびのびと暮らす、クリエイター夫婦の子育て

名前
ヨシタケシンスケ & 吉竹祐子
家族
中3と小4の男の子をもつ、4人家族
お仕事
絵本作家(夫)、クリエイター(妻)
URL
くりひょうたん。by吉竹祐子

ヨシタケシンスケ邸〈絵本の部屋〉から、家族の思い出が詰まったおもしろ蔵書をご紹介。妻の祐子さんが綴ります】

1969年12月に初版が発行された『ゆきのひ』は、絵本の部屋から出てきた一冊です。

ある日、夫が持ち出してきて、長男に「この本ね、主人公の男の子の肌の色が黒いでしょ。当時は、肌の色が黒い子が主人公の絵本っていうことが、すごいことだったんだよ」と説明していました。主人が小さかった頃、母親から教えてもらったことなのだそうです。亡くなった義母は、そのことがすごく嬉しかったようで、「とってもセンセーショナルな絵本で、コルデコット賞も取ったのよ!」と大切にしていました。

私の暮らす地域は、滅多に雪は降らないですが、息子たちが幼かった頃に、数回、大雪が降る年がありました。

息子たちは、夜降り始めた雪を眺めながら「明日積もらないかな~」と、期待しながら眠りました。朝、目を覚まし窓を開け、辺り一面の銀世界を目にした時は、飛び跳ねるように喜んだのです。そそくさと着替えを済ませ、外に出て、まずは誰も踏んでいない場所に、自分の足あとをつけ、雪だるまを作り始めたり、雪合戦をしたりしていました。『ゆきのひ』に出てくる少年とまったく同じです。そしてこの絵本を読んでいた長男は、絵本の少年を真似て雪の上に寝っ転がり、「ほら、『ゆきのひ』の男の子がつけていた天使の模様だよ!」と、手足をバタバタさせていました。

この絵本を読むと、あの頃、雪が降って大喜びしていた息子たちを思い出します。滅多に雪を見ない環境の子どもたちは、銀世界を前にすると世界共通の反応をするんですね。

貼り絵で表現された絵も魅力のひとつで、いつか機会があれば、原画を見てみたいと思っています。寒い冬のお話しですが、この絵本が我が家に残してくれたメッセージは、季節を超えて共感できるものなのです。もし、この絵本を子どもたちに読み聞かせる時には、この絵本がなぜすごいのか? 義母を真似て伝えてみてもらえると、ちょっぴり嬉しいです。

〈連載概要〉ヨシタケシンスケ邸のおもしろ蔵書の数々を、妻の祐子さんが心温まる子育てエピソードと共に綴る、その他記事はこちらより
ヨシタケシンスケ邸絵本の部屋

       
  • 『ゆきのひ』

  • 『ゆきのひ』

  • 我が家の”ゆきのひ”

          
  • かわいい天使

  • 『ゆきのひ』

  • 作者のエズラ・ジャック・キーツは長い間、熱帯のアフリカに祖先を持つ少年をこの物語の主人公にすべく、長い間、胸の中で暖めていたそう。満を持して『ゆきのひ』で、黒人のピーターを主人公として登場させたそうです。

  • 『ゆきのひ』に登場する少年ピーターが、雪の上につけた天使の模様。

  • 『ゆきのひ』のピーターを真似て、当時、長男も手足をバタバタさせていました。

  • 長男が手足をバタバタさせた後、雪の上には、かわいい天使が舞い降りてきました。

  • 『ゆきのひ』エズラ・ジャック・キーツ/文・絵(偕成社刊)

    雪が積もった朝、ピーターは外へ飛び出した。雪の中で遊ぶ一日の、新鮮な喜びと止められない好奇心を、美しい貼り絵で表現した絵本。1963年、コルデコット賞受賞。