凍えるほどの冬こそ、豊かな巣ごもりの季節
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て
- 名前
- 三浦瑠麗 / Lully Miura
- 家族
- 3人(9歳女の子)
- 所在地
- 東京都
- お仕事
- 国際政治学者
- URL
- 三浦瑠麗(@lullymiura) Instagram
おうちで過ごす時間が増えて、どんな楽しみや体験を子どもに提供するか、試行錯誤が続いています。軽井沢のわが家では庭で遊ぶことがほとんどですが、厳しい冬の寒さがやってくると戸外でそれほど長い時間を過ごすことができず、散歩に出かけてもすぐに冷え切ってしまいます。
「寒いから子どもが家の中で退屈する」と言うと、きっとペンシルベニア州の雪深い地域に住む義姉には「そんなもんじゃない!」と言われてしまうでしょう。彼らが住んでいるのは農場跡地のファームハウスで、自然に囲まれた小高い丘の上にポツンと建った一軒家。小さな大学町の中に位置していながら、家の周りは見渡す限りの草地で、はるかに向こうの山が見渡せます。
その町では、冬に外出する際にピアスをしていると凍傷の危険があると言われるほど外気温が下がるため、子どもは冬のあいだ家の中で遊んで過ごします。最近日本にも入って来ている知恵を使うようなボードゲームも人気のようですが、身体を動かす方法が課題で、義姉は子どもたちにヨガをやらせているようです。2年半ほど前に泊まりに行ったとき、朝早くからうちの娘が従姉たちにまじってヨガのポーズをしているのには笑いました。
私たちが、ペンシルベニア州の彼らの家を訪れたときは夏の盛りでした。農家がさまざまな料理や野菜、ハムなどを売りに来るファーマーズマーケットが一番の楽しみでした。ゆでたてのトウモロコシに、バーベキューの骨付きポークリブをおいしそうに頬張る娘たち。キャッキャと笑っている声が聞こえたと思ったら、大きな木に3人で登って。ショートパンツにツインテールの娘が、うさぎさんのように従姉にまとわりついて幸せそうで「ああ、きょうだいがいない一人っ子だからこの環境を満喫しているんだろうな」と、しんみりしたものでした。
黄桃狩りに行き、たくさん採って食べた残りは甘いジャムに。義兄が庭で仕留めた野生のシカをひき肉にしてもらい、スパイシーな味付けをしてメキシカンのようにシャキシャキとしたレタスで包んで食べる。高たんぱくで低脂質の赤身肉。この地に暮らす人はよく狩りをして野生の鹿肉を食べるとか。義兄は森林動物学の修士号を持つ、地方公務員の立場の狩猟委員会の地域責任者。鹿が増えすぎると生態系が乱れるので狩りを通じてコントロールし、フクロウやウサギなど貴重な動物を保護しつつ、狩猟シーズンなどの決め事を破る人がいないかパトロールをするのが仕事。そんな彼と、大学で働く義姉の仕事が奇跡的にマッチしたのがこの田舎町だったのです。
そんな夏の盛りの楽しさを思いながら、巣ごもりの時期を静かに過ごす。コロナ禍で日常が奪われつつある今だからこそ、変わらぬ毎日を丁寧に送り続けることが、ウイルスがもたらす害や社会の分断への抵抗になる気がしています。
先週末は娘が、どこからか古いレース編みのパターン本を探し出して来てやってみたいと言うので、鎖編みや長編み、こま編みなどをいちから教えました。あまりに根詰めて首を痛めてしまった娘ですが、ここまで夢中になってやるとは思いませんでした。私も小さい頃、根を詰めてレースのドイリーを作って母にプレゼントしたりしていました。今思うと不格好な作品だけれども、母はいつも喜んでくれたものです。
窓の外に雪がちらつき始めました。家族で協力して電飾をくまなく巻いたモミの木とモミジの古木が、夕暮れに舞う雪の中で光りはじめます。「ちょっと疲れたね。ホットチョコを作ろうか」と言うと、薪ストーブの横に陣取って本を読んでいた夫もすかさず「はーい」と返事をする。3つのマグカップを並べて、お盆をそろそろと運ぶ娘を見つつ、大きくなったなぁと思ったのでした。
〈三浦瑠麗さん連載〉
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て