岐阜で日本文化体験、和傘づくりと活版印刷に触れる旅

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子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

名前
三浦瑠麗 / Lully Miura
家族
3人(11歳女の子)
所在地
東京都
お仕事
国際政治学者
URL
三浦瑠麗(@lullymiura) Instagram

子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

新幹線のひかり号に乗るのは久しぶり。仕事を終え、家族で最終の新幹線に飛び乗って到着した岐阜羽島駅。そこから車で50分。『エンジン01』が行われている会場についたのは夜も大分更けてからでした。いつもの習慣で早朝に目が覚めて、娘がまだ起き出さないうちに夫と散歩に出ると、目の前には広い長良川が広がっていました。整備された川沿いの歩道にはジョギングをする人がちらほら。しばらく川べりを歩いていくと、トンビが何羽も上空を舞っています。橋があったので、向こう岸に渡ろうと歩き出し、途中ではるか下の川面を見下ろすと、水が透き通って川底の小石までよく見える。ああ、これだと鳥たちも魚を見つけやすいのだなと納得しました。

清流長良川の鮎と言えば世界農業遺産にもなっていますが、こんなに町中にあって水がこれほど透き通っているのはどうしてだろうと不思議になりました。橋を渡りきると、ほどなくして風情のある川原町の日本家屋のひと群が現われます。飴色になった木の格子戸や古びた色で家屋に同化した雨樋が美しい縦の線を描いている。港のある町として栄えてきたこのエリアは近年整備が進んだらしく、電線も電柱もありません。まだ早朝のこととて、どこも開いていませんが、工芸品の雑貨屋さんや茶店などがあるのを確認して、あとでみんなで来ようねといい、ぐるっと回って都ホテルへ帰りました。

朝食を終えてすぐに向かったのは長良川鵜飼と書いた看板のある事務所前。先ほどの日本家屋が立ち並ぶ道を抜けた川岸にありました。そこに集合したのは、『エンジン01』(注1)のプログラム、エンジン01 in 岐阜「 ナンヤローネ? ナンカヤローネ!」で、「岐阜和傘」と「活版印刷」の体験学習を家族で申し込んでいたからなのです。
(注1)エンジン01(ゼロワン)とは、各分野の著名文化人が集結し、芸術・科学・文化・スポーツから経済まで、日本文化の深まりと広がりを目的に参集したボランティア集団。各地でのオープンカレッジやセミナーなどが行われている。

ガイドの方から鵜飼についての説明を聞き、そこから向かったのは長良川てしごと町家CASA。こちらはORGAN活版印刷室の工房と、イサムノグチの明かりなどを販売するショールーム、岐阜和傘のショップなどがあり、その中のレンタルスペース「てしごとスタジオ」で和傘づくり体験などもできます。今日はその和傘づくりを見せていただきつつ、活版印刷でカードやコースターを作ることになっています。

まずは二手に分かれ、わたしたちは和傘づくりを見せていただくことに。ウナギの寝床のような町家の奥まったところにあるお座敷にあがり、油をひいた和紙を張り終えた傘に、色とりどりの糸をかけていくところを見学します。まだ若い女性の職人さんが広げた傘はうっすらと赤みを帯びた紫の和紙が貼ってあり、外縁部はぐるっと水色や藤色の花模様がちりばめられたデザインの和紙。ほんとうに際の部分は若草色の和紙が細く縁取っています。職人さんが手早く通していく縁取りと合わせた若草色の糸は、傘の骨が集中する柄に近い部分を補強し、また彩るためにかけられるといいます。色合わせは和ならではの斬新な配色ですが、傘を開けてみるまでは見えない部分であり、そして開いても傘の持ち主以外はのぞき込まないと見えない。なんと贅沢なおしゃれでしょう。

糸をしばらくかけてはくるくると回し、また糸を通す。くるくると回す。回すたびに色がさんざめく。この工程が美しくて、いくら眺めても見飽きません。ほかにもさまざまなデザインがありますよと見せていただいたのは、二つの丸の組み合わせで三日月を表したような図柄の傘、油を塗っていない日傘、そして桜の傘。桜の和傘は、2019年に『メリー・ポピンズ リターンズ』主演女優エミリー・ブラントさんにプレゼントするために製作されたとか(イギリスで長く読み継がれてきた『メリー・ポピンズ』は、オウムの柄のついた黒い雨傘で空から降りてきて子どもたちの家庭教師になりますね)。受注生産ですが一般でも注文すれば手に入るとのこと。しかし、その突き抜けた美しさと大胆さは、手にするのを思わず躊躇ってしまうほどです。娘は傘を差しながら、ただただため息をついていました。

桜は日本の心をあらわすといいます。満開の盛りを迎えたかと思えば散る。あとに心を残し、過行く春を惜しむ。和傘をぱっと開くことの劇的さには、それと通ずるような心の傾きを覚えます。

娘は名残惜しそうにしながらもう1グループと交代し、今度は活版印刷の体験をします。細かい文字を探して出来上がったのは「ナンカヤローネ!」と印刷された名刺大のカード。今回のエンジン01in岐阜の合言葉です。金色のオオサンショウウオを印刷したコースターをめいめい手にしたころにはお別れの時間が迫っていました。

ショップで立ち止まり、和傘から目が離せないわたしたち。思い切って買ったのは、青い日傘と薄紫の蛇の目傘。青い日傘の裏にはレース模様の白い和紙が張ってあります。帰り際、お礼を言い、大切にしますと伝えると、ぜひ普段から使ってくださいね、とお店の人。和傘はちょくちょく使っていただいた方が持つんです。その方がパリパリになりませんから。そうですね。おっしゃる通りです。まさに使われる文化こそがいきいきと生き残るものなのですから。

着物でお出かけの楽しみが一つ増えたわたしたち。洋服でも、蛇の目傘を差してみようかしら。美しい日本の技術が失われないように、わたしたちも学び、それがあることを感謝し、買い支えていけないといけませんね。次も何かやってみよう、学んでみよう、と思わされた日曜の午前でした。

〈三浦瑠麗さん連載〉
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

       
  • 桜の和傘

  • 胡蝶蘭の着物

  • 逗子マリーナ

          
  • ハロウィーン

  • 和傘の日本最大の産地である岐阜。見せていただいた桜の和傘は、ディズニー映画『メリー・ポピンズ リターンズ』の主演女優のエミリー・ブラントに贈られたとのこと。桜の木々が象徴的に使われた映画を思い起こさせる、美しい傘に思わずため息。

  • 『エンジン01』の幹事長、林真理子さんからいただいた胡蝶蘭の着物を着て、世界文化賞の祝賀会へ。

  • お友達の誕生日パーティーで、逗子マリーナへ行きました。

  • 今年のハロウィーンは、マレフィセントの仮装をしました。