「◯◯ちゃんは可愛い」に潜む、子どもの生きる世界に触れること

Choice

子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

名前
三浦瑠麗 / Lully Miura
家族
3人(9歳女の子)
お仕事
国際政治学者
URL
三浦瑠麗(@lullymiura) Instagram

子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て
ちいさい頃、わたしは母親が人前で子どものことを謙遜するのが大嫌いでした。人の心の「表と裏」を見て取れず、つま先から頭のてっぺんまで褒めあげるようにして育ててほしかったのですね。なぜこんなにちいさいころのことを覚えているんだろう、とよく思います。娘に接して人間くさいところを見るたびに、自分がちいさかった頃のことを思い出してしまう。でも覚えているのは、決まって親からしたらごく一部のことなんですよね。それは子どもに限らず、記憶というものが主観的にできているから。周りの観察だって自分の主観の反映です。そんな、心象風景とでも言うべき記憶をさらうと、母の愛を独り占めしたくて自分がどんなに一生懸命だったかが、まぶたに浮かびます。

子どもは聞いていないようで、親の話をよく聞いています。お手伝いをしながらお姉ちゃんとお兄ちゃんの喧嘩の愚痴を言われると、なんだかうれしい。心なしか自分がいい子になったような気がして、お皿を拭いている手つきまで変わってしまうものなんです。いい子というのはふつう、偽善とかやせ我慢からはじまります。だって、ほら、ひとつ残ったお菓子を「いいよ、食べて」なんて言うのは、心の底からじゃないに決まっているんですから。だから、ほどほどに「いい子ぶる」ことを否定する必要はありません。ただ、黒い気持ちがむくむくと湧いてくるような、他人の不幸は蜜の味なんていう風になっては困る。

したがって、わが家では「ほどほどにやせ我慢」と「思いやり」を説いて聞かせ、感謝される幸せを覚えてもらいつつ、こずるさは許容して笑い飛ばす、そんな教育を心掛けています。娘がいじわるいコメントをしたときには、同調せず、ふんふん、と聞き置いて、何か一言、「で、あなたはどうなの?」と客観的に返す。「あ、いまいじわるい顔をしたな!?」とかいう突っ込みでもいい。あなたのことは全面的に受け入れているけれども、批判精神をもって見てもいるよ、と。彼女が今後対峙する世間とのつなぎ目にもなってあげることで、客観性をもって自分を見る余裕ができるんじゃないか、と思うからです。

この春、娘が4年生に進級したので、どんなお友達が一緒になったかを聞いていると、突然彼女が「Aちゃんは男子にモテるんだよ」というのです。Aちゃんはクラスのアイドル。4年生にもなると、外見やら異性からの評判やらが気になるようです。そりゃそうですよね。

娘は、男子だらけの保育園で育ちました。偶然なのですが、同じクラスに女の子がいず、1対6の逆ハーレム状態。当然、彼女は6年間みんなのマドンナでした。みんなから大事にされて、寵愛を競われていれば鷹揚にもなります。でも、残念なことに保育園からお友達は一人も地元の小学校にあがらずじまい。小学生からまったく違う文化に放り込まれて、戸惑いつつここまで来たようです。

そんななかで、比べようにも相手がいなくて比べられなかった自分が、女子の中でどんな立ち位置を占めているのかを考えるようになったのでしょう。「ふうん、そうなんだ」と受け止めたうえで、「あなたは、男子にどう思われてるの?」と聞くと、「えー、怖がってるんじゃない。あたしズバッというもの」だとか。

「ほんと?」と笑いつつ、彼女が自分の個性を早くも位置付け始めていることに不思議なような、こそばゆいような気持ちになりました。○○ちゃんの方が可愛い、とか、○○ちゃんの方が人気がある、というのは子どもが必ず気になるところのはずで、そこに格付けが生まれ、おそらく必要以上に自分のキャラ付けを迫られることになります。

物書きをしていると、それぞれの個性を観察している方が面白くて、誰がハンサムだとか可愛いとか何番目かなどということはあまり気にならなくなるものなのですが、学校はそうもいきません。人工的なまでに同じ年齢の子どもたちがひとところに集まり、社会を形作ればそうなる。つまり、放っておいても人は自分と他人を比べるもの。それをさらに強化するようなことを、親がしてはいけないと思うのです。

自分を愛おしむことができる人間に育てるにはどうしたらいいのだろうか。まだまだ試行錯誤の最中です。ダメ出しはするけれども、人を「上げ」て叱りはしない。褒めるときも誰かをけなさない。娘のいいところ、わたしが好きなところを毎日伝えるようにしています。可愛い、可愛い、えらい、えらい、と育てるのに、人と比べる必要はないのですから。

〈三浦瑠麗さん連載〉
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

       
  • 芝生をかけっこ

  • 散歩途中のソフトクリーム

  • トルコの保育園にて

          
  • パパとかけっこ

  • イースターエッグ

  • 軽井沢の「星野温泉」前の芝生広場で。まだちいさな娘のかけっこ。

  • 先ほどと同じ「星野温泉」。いつの間にか大きく成長した娘と村民食堂でソフトクリームを。着ているベストは、アメリカ旅行の際にワシントンD.C.近くのシェナンドー国立公園で買った子ども用レンジャーベスト。

  • トルコを訪れた際、日本が支援してできたシリア・イラク・アフガニスタンからの難民のための職業訓練施設に付属している保育室へ。子どもたちは口々に「お医者さんになる!消防士になる!」などと話し、未来に期待を抱いています。

  • 保育園時のころ、皇居外苑でパパとかけっこ。

  • 遅ればせながら、軽井沢の家でイースターエッグ探しをしました。