伝え合って話し合って。親子の信頼関係の向こうに、自分が見えてくる
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て
- 名前
- 三浦瑠麗 / Lully Miura
- 家族
- 3人(10歳女の子)
- 所在地
- 東京都
- お仕事
- 国際政治学者
- URL
- 三浦瑠麗(@lullymiura) Instagram
【子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て】
このあいだ担任の先生と保護者面談をして、気づいたことがあります。娘の旺盛な批判精神と、それから自己分析がまだできていないところ。先生は優しくて考え深い人。クラスの子どもたちのさまざまな性格を察知して、なんとか〇組というコミュニティを成り立たせようとしてくれています。大人だからというだけでなくて、よく人を観察する人だからこそわかる、娘のいいところと足りないところ。そして、これから彼女を待ち受けるであろう困難についても、適切に予測してくれていました。
娘は口数が少なめな一方、けっして従順ではなく、したくないことはしない。それは悪く言えば協調性がなく、よく言えば確固とした自分を持っているということでもあります。正義感のツボに入らないかぎりは大人しく周りを観察していますが、いったんツボに入ると毅然と意見を言うこともある。意外に甘えん坊なところと、相手に従わず自分を曲げないところの変なミスマッチは子どもならではですね。
とにかく礼儀作法は守ることと、自分を客観的に見て相手の善意に応じたり協力できるように教えます、と言って帰りました。抱いた感想は夫と似たり寄ったり。自分たちの子どもだねえ、というものでした。興味さえあれば何かに一生懸命になることはできる子なのだから、やっぱり客観的に自分を見る目と共感力を磨くことしかできないね、と。
わが家の教育で何を重視しているのか、講演などでも聞かれることが少なくないのですが、ひとつは時間を使って親子で話し合うこと。もうひとつは思いやりや責任感を持てるように導くこと、と答えることが多いです。
なぜ多くの時間を使ってさまざまなことを話し合うかというと、ひとつは表現し伝える力を養うため。自我の形成には自己表現能力が大きくかかわっています。何かの知識を教えるというよりも、それはどういう意味なのか、どうしてそう思ったのか、お友だちのこと、勉強の中身、子ども新聞で読んだこと、そうしたさまざまなことについて自分の言葉で説明し、伝える能力を磨くことが大事です。こちらがお説教をするときも、強く怒った後には、なぜそれがいけないのかをきちんと納得するまで説明する。理解する気がある、理解してくれる、この双方向を信じられることが、親子の信頼関係を形作ると思っています。
もうひとつには、多くの物事には必ずしも正解がないということも分かってほしいと思うから。それぞれの人がおかれた立場からは、違うものが見え、しばしば異なる意見が形成されます。勉強については、話し合い考えるというのは、幾分回り道かもしれません。言われたことを無批判にスポンジのように吸い込む子の方が、受験勉強やテストではスピーディーに楽に成績を残せます。でも、そういったやり方では人生を丸ごと楽しむうえで不利になることもある。人生の多くの問題については、誰も答えや解決方法を教えてくれないからです。物事をなるべく客観的に捉え、「考えをめぐらす」ことのできる人だからこそ、逆境に強いというのは真実だと思います。
このように、知的な能力のかなりの部分は、知識量と言うよりも批判精神にあります。でも、従順であることや社会とうまくやっていく能力は、それと相反することも少なくない。批評的に物事を見る能力はある程度訓練で教えられます。けれども、そうやって娘の批判精神が旺盛になっていくと、つい自分の意見が通らないこととか、お友だちが理解してくれないことへの落胆が先に立ち、いつも孤独を感じ、独りぼっちな境遇になってしまうこともあり得ます。よく、成功した人には変わった人や孤独な人が多いと言われることがあります。けれども、集団生活の「当たり前」が受け入れられなかった人の大部分は、そういった成功者ではなくて、疎外感を抱えて生きている場合の方が多いのではないでしょうか。
わたしもちいさい頃は孤独でした。話し相手を得て、人生ってこんなに変わるんだと気づいたのは大学に入ってから。でも、より深いところで自分が若い頃幸せになれなかったのは、他者に心を閉ざし、他者から自分を隔てて生きていたからです。それに気づいたのはもっと後でした。批判精神を持ち、自己表現能力を育てることは、すなわち誰か「聞いてくれる相手」を必要とする能力を磨くということ。人間社会は多様な意見や立場に満ちており、それぞれがぶつかり合い、すれ違って生きています。だから、自分を見つめるとともに相手のことも見つめなければならない。相手の言葉に耳を傾けることは、自己主張とセットなのです。
10歳にはちょっと難しいけれど、伝わってほしいなと思う今日この頃。
〈三浦瑠麗さん連載〉
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て