いつかあなたに、ボーイフレンドが出来たら

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子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

名前
三浦瑠麗 / Lully Miura3
家族
3人(10歳女の子)
所在地
東京都
お仕事
国際政治学者
URL
三浦瑠麗(@lullymiura) Instagram

子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

週末の夜、ゆっくりと温泉に入ってまたたく星をみていたとき、なぜか娘が近々と寄ってきて、「ねえ、ママ、男子を好きになるっていうのはいったいどんな感じなの?」と聞くので、思わずお湯の中で居ずまいを正してしまいました。

娘も小学校5年生、たしかにいろいろとあってもおかしくない年頃です。ただ、そんな驚きよりなによりまっすぐな目で正面から聞かれたことが面映ゆくて、そうねえ、といったん言葉を濁しました。バレリーナを志す少女が成長していく物語などに、美しい「恋」や出会いはたくさん描かれているけれども、本人としてはいまいちピンとこない様子。日常で出会う男子はあまりにそうしたイメージからかけ離れていてしっくりこないということでしょう。そのくせ、女子とお出かけしているときなどはクラスの男子のことばかり、ああでもないこうでもないとクスクス笑って評論しているのですから、彼らがまったく対象外ということでもなさそうです。

わたしもちいさい頃、クラスの男子が気になることはありました。でも、恋に憧れる気持ちはそのリアルな実態をかけ離れて、なんだか壮大な夢のようなものにまで膨れ上がっていたような気もします。そもそも、恋とは偉大なる勘違いなのかもしれません。

とはいえ、ビビッとくる相手とこない相手とは明確に分かれているのですから、勘違いであるにせよないにせよ、恋に落ちる相手というのはなんらかの特質を兼ね備えているはずです。でも、霧の向こうにある記憶をどうたどってみても、その人の眼差しとか、手とか、声音であるとか、明らかに外形的なものしか浮かんでこないのです。

「――そわそわするというのはあるかもしれない。手につかなくなる感じ」。わたしはゆっくりと言いました。「パッと熱が出るというのに近いのかな。のぼせるって言うでしょ。ああいう正常な判断が出来なくなる感じかしら」。――われながら夢のないことです。娘は黙って聞いていると、ぽつりと言いました。「なんか可愛いって感じなんだよね。気になるし、面倒見たくなることはなるんだけど、可愛いっていう以上にいま男子に対する感情はないなあ」

「あなたが読んでいる本ね、みんな恋とか愛とかなんかすごいロマンチックな感じがして、日頃周りにいる男子とは隔たりがありすぎる感じなんじゃない?」とわたしが言うと、「そうねえー」と、お湯の中を泳ぐようにして動き回る娘。自分にもきっとやってくるであろうその恋とやらはいったいどんな姿かたちをしてやってくるのか......と顔に書いてあります。

「まあ、恋しちゃったらしょうがないんだけど、その人のいい所とか、尊敬できるところか、冷静に説明できる部分もあった方がいいかもしれないわね」。そういってわたしはお湯から出ました。どうしても、ロマンチックな恋愛というものを信じられないのは、幸せってそんな風にやってくるもんじゃないというのが身に染みているから。いっときの幸せが長期的な幸せに結びつくことは稀です。

好いた惚れたというのは、相手に対する期待値がいまだふわふわと揺れ動いている状況のことを言うのでしょう。自分は受け入れられるのか、相手が去ってしまうのではないか。そうした不安によって、恋はむしろ燃え上がります。反対に、十分に認められて安定した愛情を注いでくれる存在には、浮き沈みを感じることはありません。むしろ、どのように相手の長所を見出し、相手に愛情を注げるかというところが、関係の重要部分となってくるからです。相手の人格を尊重するにあたって、恋のもたらす感情の浮き沈みはときにマイナスにも働きうる。自分が思ったような感じではなかったという相手の言動に対する違和感が溜まっていったり、あるいは相手を喜ばせ満足させることが第一になってしまったりと、極端な関係性を結びやすくなるからです。

相手の言動を許せなくなるのは、込めた期待が裏切られるから。相手が言ってほしいようなことを言ってしまい演じてしまうのは、相手に失望されるのが怖いから。恐れが介在する関係性は、まだまだ自分というものを離れられていないのです。

でも、これから試行錯誤をしてみようという娘にそんなことを言っても始まりません。まだ、「恋」という夢のような概念を追いかけながら、傍らにいる男子を、なんかちょっと違うんだけど可愛いな、と思っている娘に伝えることではないから。精一杯ふわふわしたり、ぶつかって失望したりしていいのです。できれば、その時々の悩みを打ち明けてほしい。

ボーイフレンドが出来たら......。そんなあなたをそのうち見てみたい、と思うのです。

〈三浦瑠麗さん連載〉
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

       
  • 軽井沢のキッチン

  • フルーツケーキ

  • モクレン

          
  • 黄昏時の庭

  • パーティ

  • テレビ番組で、軽井沢の家での生活を紹介しました。キッチンで娘と一緒に、バーベキューの野菜の下拵えをしているシーンです。

  • 娘の誕生日パーティーに焼いたフルーツケーキ。どっしりと重たいケーキは、我が家の伝統的なレシピです。

  • 軽井沢の家の庭に植えたくて、モクレンの木を買いました。

  • 軽井沢の庭、日が沈みかけた夕刻の静謐なひとときが大好きです。

  • 軽井沢の家に友人が来て、パーティーをしました。庭を眺めながら、ワインを片手に陽が落ちていく、穏やかなひとときでした。