子ども時代の記憶こそ、色鮮やかに重ねていきたい

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子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

名前
三浦瑠麗 / Lully Miura
家族
3人(11歳女の子)
所在地
東京都
お仕事
国際政治学者
URL
三浦瑠麗(@lullymiura) Instagram

子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

アメリカに行ってきました。仕事も含めてほぼ3年ぶりの海外。成田空港の閑散とした感じも、行った先での人々ののびのびとした自由さも、それから異国の地で街歩きをする喜びも、何もかもがこの3年弱の間に失われていたものを思い出させてくれました。

子どもは生後半年から世界各国を旅していますが、記憶に残っているものと言えばせいぜい4、5歳になってからでしょう。成長期の3年というのがいかに長いものなのか、大人はつい忘れがちです。若いときには、見るものや聞くものから目いっぱいに吸収をして、それがすぐに血肉になっていく。11歳の彼女からすれば、記憶にある人生のうちの半分がコロナ禍に覆われていたことになります。41歳のわたしからすれば、人生の10分の1以下のインパクトしかない時間も、子どもにとっては違うということ。その3年間を、彼女はふつうの運動会もなし、夏祭りも花火もなしで過ごしてきたんだなと思うと、申し訳ない気持ちになります。

自分のちいさい頃は、いまのような過剰な衛生観念はなくて、毎日裸足で泥んこになってかけまわっていたし、夏休みといえば魚釣りに、青い草いきれ、草をかき分けていく浜辺のさらさらとした砂、打ち上げられる花火を浴衣にチョンと兵児帯を結んで見上げていたことなど、次々と手繰りだせる記憶がある。いまの子どもたちは、しじゅうどこへ行くにもマスクをして、オンラインで花火の映像を見て、アクリル板越しに人と接しているのですから、同じように育つわけがありません。

振り返ればわたしの人生にはいろいろな不幸なことも起きたけれども、幼少期の幸せの記憶さえあれば、やっていけるのではないかと思うところがあります。こうやって子どもに与えることが自然にできるのも、自分が与えられてきたからでしょう。お金ではない、さまざまなリアルな記憶こそが、その後の人生を支えるのではないでしょうか。

仕事とプライベートを組み合わせていったアメリカでは、週末に義姉の家を訪れました。この連載でも書いた元農場のファームハウスです。今回は近くのアットホームなインを取ってもらって、親たちはゆっくりそこで休み、娘はお泊りをしました。

時差ボケで目が冴えてしまったわたしたちは、朝白みかけたころに散歩に出かけます。旧市街の方に車を停めて、小1時間歩くと雄大なサスケハナ川にぶつかります。このあたりは平らな土地で川幅も広く、まるで湖のよう。静かな川面には緑の木々が鏡のように映り生えています。朝日が昇るころ、渡り鳥の群れが列をなして飛んでいきます。川面には水鳥たちがまどろんでいる。黙ったまま、何時間でもベンチに座っていられそうです。

義姉の家に行くと、朝ご飯を食べながら今日はビーチに行こうという会話が盛り上がっています。え?ビーチ?どこに?と聞くと、なんと山の上にビーチがあるんだとか。真っ青な空の下、確かに冷たい水のカルデラ湖がありました。そしてそこにはトラックで土砂を運び入れて作った人口の砂浜が。アメリカ人のすることはスケールが大きいね、とわたしたち。

ちょうど眠くなってきた頃にお日様に照らされてデッキチェアでお昼寝。子どもたちは泳いだり水をかけあってはしゃいでいます。昼ごはんには「ビーチハウス」でブリトーやらナチョスを買ってきて、冷たい水筒のお水とともにいただく。食後にはフルーツ。チップスの塩味が汗をかいた体に嬉しい。でもなんとなく唐揚げとおにぎりが食べたくなってしまうのは子どもの頃の刷り込み故でしょうか。

3年間交流が出来ず、それぞれ母語ではない英語や日本語が不得手になってしまっているいとこたち。そんななかでもしだいに関係性を取り戻していくのを見ていると、子どもの力ってすごいとも思います。お互いに同性のいとこはほかにいないので、大切にしたいものです。次は日本にいらっしゃい。温泉に行こうといって別れました。

おにぎりを作って海岸で半日を過ごす。お肉やお魚を一緒にバーベキューで焼く。親戚にあって子供どうしで遊ぶ。そんな家族の時間はかけがえのないもので、お勉強や技能を身につける以前にもっとも大事なことだとわたしは思います。美しい風景を見て、それを共有することができる、美味しいものをみんなで食べ、ともに笑うことができるということにこそ、暮らしの意味があるのではないでしょうか。そうしたことを抑圧しつづけて生きていくことは、ほんとうに「生きる」ということではないのではないか、と思うのですが。

〈三浦瑠麗さん連載〉
子どもの未来をクリエイトする、国際政治学者の個性派子育て

       
  • NYへ

  • サスケハナ川

  • サスケハナ川

          
  • ファームハウス

  • カルデラ湖

  • 日本の夏

  • NYのグランドセントラル駅は、歴史ある建造物も見所の、巨大なターミナル駅。

  • アメリカ北東部を流れる、サスケハナ川。ニューヨーク、ペンシルベニア、メリーランドの3州にまたがって流れている。

  • 時差ボケで目が冴えてしまったわたしたち。朝日がのぼる美しい川面の風景に出合いました。

  • 夫婦だけで滞在したファームハウススタイルのインでは、素敵な空間で朝ごはん。

  • カルデラ湖につくられたビーチで、夏のひとときを堪能する。

  • 軽井沢の家で、温泉から帰ってきて花の香りをかぐ娘。