東京を離れて軽井沢での子育て日記「森のくらし3月」
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし
- 名前
- 川上ミホ / Miho Kawakami
- 家族
- 3人(6歳の女の子)
- 所在地
- 長野県軽井沢
- お仕事
- 料理家、エッセイスト
- URL
- 川上ミホ オフィシャルHP
- URL1
- miho.kawakami.5
- URL2
- miho.kawakami.works
【子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし】
森のくらし3月。
今シーズンは久々に寒い冬でした。
毎朝のように雪が降り、あちらこちらの庭先に雪だるまやカマクラがお目見え。実は例年の積雪量はそれほどではない代わりに、軽井沢では最低気温はマイナス10度にも到達し最高気温だって氷点下の日々。「雪国」ではなく「氷の国」と表現する方もいるほどです。
娘の幼稚園は夏であろうが、冬であろうが、基本的に一日中外!「氷の国」ですから、当然服装は重装備。
ノースリーブのインナーに、厚手のヒートテック、フリースを2枚重ね、足元はスキー用の超厚手ソックスに、極暖ヒートテックタイツ、そして上下ともにスキーウェア。
スキー用グローブに、ニット帽、靴はもちろんスノーブーツ。
着替えは基本的に手伝わず娘のペースに任せているから、いつも支度が完了するのは出発時間ギリギリ。
なるべくガマンしているものの「早くしなさい!」が飛び出ることもありました。。。
それが、2月の下旬に入ったある日のこと。娘が突然テキパキと着替え出しました。
「あの出かける間際まで全身ヒートテックまでだったのんびり屋さんはいずこ?」状態。
彼女はサッサと着替えて朝食も済ませ、「早く学校に行きたい」と言い出す始末。
それも、1日だけでなくその日を皮切りに1ヶ月近く春休みまで続きました。
きっかけは、たまたま早く支度して早く学校に行ったときに、「早く行った方が友だちとたくさん遊べる」ということに気づいたらしいこと。本当に純粋に「早く学校に行きたい」と思ったその気持ちは、「早く出かけるためにどうしたらいいのか」を自分で考え、早起きをすることと素早く支度をするという行動につながりました。
子どもの「やりたい」スイッチってすごいなと思った話をもう一つ。
昨シーズンからスキーを始めた娘。今シーズンは、週末ごとに近場のスキー場へ家族で出かけました。みるみる上達してきたある日、「パルコール嬬恋」というスキー場のスノーボードのパークで自由自在に跳んだり回ったりするスノーボーダーたちの姿を目にしたことがありました。そののびのびとした姿に彼女は心を動かされたようで、その直後パーク(といっても初心者用の山ですが)にまさかのボーゲンで挑んで行ったのです・・・。
「ひえーーーっ」と見ていたこちらがびっくり。想像していたようには滑れなかったためか
、「もう一度滑る」「もう一度」「もう一度」・・・・しまいには疲れ果てて動けなくなり、悔し涙がにじむまで滑り続けました。スキーは背が小さく視点が低い=斜面への恐怖が少ないので、小さいうちに始めたほうがいいという話もありますが、もうひとつ「楽しい」「やりたい」となった子どもの集中力のなせるワザは大きいなと感じた出来事でした。
そんな"子どもが自分で「やりたい!」と思ったときのパワーって改めてすごいな"と改めて感動した冬を過ごし、春の訪れを感じていた3月下旬。娘は幼稚園を卒園しました。
その卒園式で園長・校長先生のごりさんが卒園の挨拶の代わりに『とべ バッタ』(田島 征三・偕成社)という絵本を読んでくれました。
「ちいさな しげみの なかに、バッタが いっぴき かくれすんでいた。そこには、おそろしい ものたちが いて、バッタを たべてしまおうと ねらっていた。」
強い天敵たちから身を守るためいつも怯えて生きてきたバッタがある日決意をして茂みから飛び出す物語です。
すぐに、ヘビやカマキリなどのおそろしい天敵にみつかってしまうバッタ・・・けれど襲われそうになったその瞬間!!
「バッタは、しにものぐるいで とんだ。」
自分で決めて世界へ飛び出していったバッタがどうなるのか・・・ぜひ田島さんの力強い絵とともにたくさんの方に触れていただきたいです。
ごりさんは本を読み終えてひと息つき、保護者の方へ向き直って「子どもたちは自分の力で力強く飛び立つことができます。私たち大人はハラハラしながらもその力を信じて一緒にじっと見守りましょう。」という言葉をくれました。
ともすれば、先まわりして手助けやアドバイスをしたくなったり、「がんばって」「やりなさい」とおしりを叩きたくなったりする子育て。けれど、子どもの「やりたい」の力を目の当たりにしたこの冬の出来事を通して、子どもは自分が「やりたい」ことを見つけることができるし、それをやろうとする力も自分でつかむことができる。
そんなことを信じられる気がしたのでした。
〈川上ミホさん連載〉
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし