家庭菜園を始めて、畑からの豊かな恵みを家族で楽しむ夏。

子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし
- 名前
- 川上ミホ / Miho Kawakami
- 家族
- 3人(6歳の女の子)
- 所在地
- 長野県軽井沢
- お仕事
- 料理家、エッセイスト
- URL
- 川上ミホ オフィシャルHP
- URL1
- miho.kawakami.5
- URL2
- miho.kawakami.works
【子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし】
今年から畑仕事を始めました。
社会人になって東京に越してきてからずっとマンション暮らしだった私。
もともとは埼玉の熊谷というところで生まれ育ち、家に家庭菜園があったのはもちろん、近くに暮らす母方の祖父母は農業を営んでいて、「野菜を育てる」ということは身近でした。
子どもの頃はそれが当たり前すぎて気づかなかったけれど、土の少ない場所で暮らすようになって、さらに娘が生まれて、「いつか土があるところで生活するようになったら私も畑をやろう」と漠然と考えていました。
ところが、いざ土がたっぷりある軽井沢の家で暮らし始めての1年目、2年目、庭の片隅につくった家庭菜園は散々たるもの。ミニトマトに各種ハーブ、ナスやキュウリなど定番の苗を植えたけれど、最終的に生き残った(もはや収穫とかのレベルではない)のはイタリアンパセリのみ。東京のテラスでも育てられたバジルやシソは跡形もなく、「イタリアンパセリ最強」というのと「野菜は土があれば育つってものでもない」ということを学んだのでした。
実は軽井沢の土、それもわが家が位置する中軽井沢の北エリアは大昔の浅間山の噴火の影響が大きく、また森の中という日当たりの悪さも相まって、家庭菜園の難易度の高い地域。イングリッシュガーデンをつくっている知人は「庭の土を毎年120kg入れ替えている」というほどです。
「今年は家庭菜園を工夫するのと同時に、畑について勉強をしよう」と思っていた春のこと。「畑とその先生を探しています」と会う人会う人に話していたところ、友人から「今年からシェア畑を始める知人がいるよ」と紹介されて参加することになったのが今の畑。区画に分けてシェアするのではなく、みんなで一つの畑をつくっていくスタイル。しかも、地元の農家さん(遠山農園さんという軽井沢の農家さん。農薬を使わずに多品種の野菜を育てていて、お取り寄せも可能)が先生として色々教えてくれるという、またとない機会。
できる人ができる時に畑の手入れをするというスタイルで、私も学校にお迎えに行った帰りとか、習い事までの待ち時間とか、ちょっとしたスキマ時間に小学生の娘も一緒に連れて行くように。ちょうど学校で「レストランプロジェクト」という子どもたち(小学1-2年生)の手でレストランをゼロからつくっていくプロジェクトに手をあげた娘は、学校でもグラウンドに「farm to tableのための自家菜園」を作りはじめたタイミングで、畑に興味津々。
ちなみに、彼らの「畑」はグランドの一角。「レストラン」以外に「畑プロジェクト」メインのチームもあったり、同じ敷地内で活動する園児たちも耕していたりして、去年まで子どもたちがサッカーボールを蹴っていたグランドは、あっという間に野菜やハーブが青々と葉を伸ばす菜園になりました。
「とうもろこしの上のフサフサは雄花で、実がつく雌花は下の方につくんだよ」「間引きしたにんじんで葉っぱごと丸ごとのスープをつくって食べたよ」「玉ねぎの皮でハギレを染めて、ランチョンマットにするんだ」「同じ野菜でも虫が好きなのと、好きじゃないのとがあるんだよ」。畑を起点にして、娘の話題は豊富。
面白かったのは、人参の葉っぱのスープを「美味しい!」とお代わりをして食べた話。人参の葉はハーブ的な味わいで、個人的にはかき揚げにするのが好きだけれど、子どもが好む味わいではありません。「間引き人参の葉っぱは柔らかいんだよ」「他のを大きくするために抜かれたにんじんだから、丸ごと食べてあげないとだよね」と。小さいうちの人参の葉は柔らかいことを体験を通して学んだこと、そして、人参が育つ過程を目にしたことで小さな生命として認識し、だからこそ無駄にしたくないという気持ちが生まれていることに驚いたのでした。
自分たちが日々口にする「野菜」との距離が近くなることはポジティブなことです。ひとつは圧倒的に美味しいということ。農家さんのお野菜はもちろん美味しいけれど、自分たちで育てたという愛着は野菜の美味しさを一層深くします。とれたてという鮮度の力も加わって、「わぁ!お野菜って美味しいんだ!」と感じるポジティブな体験を重ねると、野菜の見え方が確実に違ってきます。
大学生の食行動についてのあるレポートで、進学により親元を離れた大学生のうち、幼少期の調理や農作業の経験の有無や、自然に触れたことがあるかどうかが食への関心や自炊の回数などに影響を及ぼしているというデータがあります。独り立ちした時に健康的な食生活を目指すかどうかやそのための知識や技術は、幼少期の経験による可能性があるわけです。
もうひとつは野菜が育つ周辺には子どもにとって知的好奇心を楽しく刺激するものがたくさんあるということ。虫のこと、草のこと、太陽のこと、水や季節のこと、土のこと・・・。興味のアンテナに触れることがあれば、それはこの世界をより深く知るための入り口になるかもしれません。
もちろん、畑は大人にとってもめちゃくちゃ楽しいですよ。植物の生存競争すごいなーとか、天気予報を見ながら種まきやらのタイミングを見極める農家さんの知恵とか、一瞬で伸びる草とか野菜とか、どこで知ったのか飛んでくるハチとか、蝶とか。大人になって知ることもたくさん。汗をかきながら子どもと畑にいると、楽しくて時間があっという間です。そして、収穫した野菜を食べる喜びはひとしお! おいしさへの感動とともに感謝の気持ちが湧いてきます。それを子どもと分かち合えるって、なかなかない機会だと思うのです。
子どもと畑の関わりを後押しする活動は、1990年後半にカリフォルニアでスタートしたアリス・ウォータースのエディブル・スクールヤードが有名ですが、日本でも少しずつではあるけれどもエディブル・スクールヤードに取り組む小中学校やアーバンファームなど都市の中に小さな共同菜園をつくる活動が芽を出しています。
身近な畑活動に参加してみたり、環境や時間的に難しければ、ベランダでのプランター栽培やキッチンの水耕栽培でもいいと思います。子どもの目に触れ手に届く畑、おすすめですよ。
〈川上ミホさん連載〉
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし