夏休みの旅行にもおすすめ|屋久島で学んだ自然との共生の新しいカタチ

Choice

子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし

名前
川上ミホ / Miho Kawakami
家族
3人(7歳の女の子)
所在地
長野県軽井沢
お仕事
料理家、エッセイスト
URL
川上ミホ オフィシャルHP
URL1
miho.kawakami.5
URL2
miho.kawakami.works

子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし

娘も小学2年生。

今年の春休み、わが家は家族で屋久島を訪れました。

実は前回の記事はその屋久島訪問の後に書いたもので、後半の自然観の記述にはその影響がありあり。次回はいつ伺おうかなと振り返ってみて、改めてその島での時間がとても印象深く、これから夏休みの予定を考えていらっしゃる方にもひとつの参考になればと思ったので、今回はそこでの経験をご紹介したいと思います。

屋久島訪問の目的は、友人の3家族がチームで創り上げたSumuというプロジェクトを取材を兼ねて訪ねることでした。

屋久島は九州最南端・佐多岬から南南西約60kmに位置する島。1993年12月に世界自然遺産に登録された屋久島は、樹齢数千年といわれる縄文杉が有名ですが、洋上のアルプスとうたわれるほどの標高(九州最高峰の宮之浦岳1936m)があること、東京23区と同じ程もある大きさなど、さまざまな要因により固有種や絶滅危惧種の動植物などを含む豊かな生態系と自然を有していることが評価されています。(500㎢の島の中に日本のあらゆる気候・生態系が凝縮されているといわれています。)

鹿児島空港からプロペラ機で30分。気流の関係で激しくガタガタと揺られながらたどり着いた屋久島は私たちの想像をはるかに超えた、いわゆる一般的な観光地とは大きく一線を画す場所でした。

Sumuのプロジェクトはもともとは東京をベースに活動する多様な背景をもつメンバーによるもので、その成り立ちにはMoss Ocean House(以下、Moss)という「人が来るほどに自然が豊かになる仕組み」「人がそこに"住む"ことで自然がもっと"澄んでいく"」をテーマに実践とリトリートプログラムを通して知恵や学びをシェアするチームとの出会いがあります。

Mossのチームの取り組みはこちらのnoteの記事を読んでいただくのがわかりやすいのですが、とにかく私が今まで思っていた自然と人との関係性のイメージとスケールが違う。サステナブルのずっと先、リジェネラティブを実践・シェアしていて、度肝を抜かれました。

私たちの初日は、Mossの山ちゃん先生に導かれて海岸へ。まずこの海岸が想像と違ってびっくり(笑)。

とにかく大きな岩や石がゴロゴロ。原始的で荒々しい岩場を若干足を取られながら進みます。「本当にここを子連れでいけるのだろうか・・・」。自分の足元もおぼつかない大人の心配をよそに、わが家の7歳児はぴょんぴょんとバランスよく進んでいきます。「大人よりも子どもの方が体幹がしっかりしていますよ」。地元の子どもたちはもちろん、1週間も滞在しているとこの不安定な石だらけの海岸は子どもたちの最高の遊び場になるとか。

「ここに水の通り道があったのが道をつくるためのアスファルト塞がれてしまっているので、森のこの部分が窮屈になっている」「森には水や風の通り道がある」「森と川と海はつながっている」。

私から見るとどこも同じように見える岩場や森も海も、山ちゃん先生の解説を聞くと見え方が変わります。自然環境の話題になると、とかくタイムリミットや現状の問題・課題点がフォーカスされやすく、気づくと眉間にシワが寄りがちです(私だけでしょうか)。

もちろん、現実を見つめて緊迫感をもって取り組むべきことでもあるのですが、正直いうと絶望からくる焦燥感に駆られながらではなく、もっと明るい希望をもって未来のためにできることをしたいと思っていたので、人の存在が自然環境を破壊するのではなく、Mossのチームが実践する人の活動や生活が自然環境をよりよくする可能性にふれて目から鱗が落ちました。

そして、水量の豊富な川にたどりつく頃には、自然観が変わり始めたような感覚が・・・。

森の保護活動に興味のある娘は、山ちゃん先生の話に興味津々。理解度は不明なものの、拠点に戻ってからの落ち葉集めなどに一生懸命参加したり、さまざまなお手伝いをしている様子をみるに、彼女の心にも何か小さな灯りがともったようでした。

滞在はMossの隣地にあるSumuへ。森の水や空気の流れをなるべく遮らないよう様々な循環を考慮しながらつくられたこの建物の建築設計を担当した小野さんは建築家ならぬ菌築家。

Sumuのウェブサイトの言葉を借りるなら「サイトの生態系に配慮し、人と自然の調和を模索して設計」され、「基礎構造は日本で古くから伝わる土木工法を採用し、周囲の植生に働きかけ、土中環境が成熟することで地盤を安定・強化させる方式」を実現したとのこと。

自然環境と調和したというと素朴な木造建築を想像しますが、建物は地元の素材をメインに使用しつつもモダンで美しい仕上がりで、居住性もデザイン性もよく、自然環境と人の暮らしやすさの両立は叶うものだと希望を持たせてくれるものでした。このSumuのプロジェクトは、今年世界三大デザイン賞の一つであるiFデザインアワードのRegenerative Architecutre & Lifestyle部門でゴールドを受賞しました。世界的にもその考え方や実践が評価され、今後様々に影響していくことでしょう。

この屋久島での体験を経て2ヶ月。今、娘は学校で「森を守るプロジェクト」という名の小さなプロジェクトを立ち上げようとしています。屋久島で改めて自然の美しさ厳しさ、多様性に胸をうたれたこと、そして山ちゃん先生や小野さんといった大人たちが自分がよいと思うものを形にしたり、シェアしたりしていることに感銘を受けたこと。が大きいのかな。もちろん、これまで出会ってくださったいろいろな人たちがまいてくれた種ひとつひとつのおかげもあるでしょう。

どんなことが子どもにどう影響するのか、いつそれがどんな形で種や芽吹きや影響になるのかはわからないけれど(むしろ子どもの自由な感性にまかせて大人は期待したり誘導しないことが大切だと思うけれど)、今年の夏もたくさんの人の様々な考え方や活動にふれることを大切にしたデスティネーションを考えようと思っています。

*Sumuについては現在一般公開をしていません。が、国内外のメディアの記事などを通して哲学に触れることができます。
Moss Ocean Houseは不定期でリトリートを企画しています。直近では7月の実施。
アクティビティサービスではなく、経験し学ぶ場であるので、何かをしてもらったりサービスを受けるというよりは、知恵や経験をシェアしてもらう場として参加されるといいかもしれません。子どもも大人もただ屋久島を訪れるよりも深い何かを持って帰れるのではないかと思います。


〈川上ミホさん連載〉
子どもが教えてくれる軽井沢森のくらし

       
  • 屋久島へ到着

  • Mossの山ちゃん先生の話を熱心に聞く

  • 想像を超えていたビーチの景観

          
  • 大きな岩の上で

  • 岩の先の風景は…

  • 屋外でのディナータイム

  • 屋久島の小さな空港へは50人乗りのプロペラ機で。

  • 屋久島に20数年前に移住してきたMossの山ちゃん先生は、島の生態系や地形・気候に精通していて、リジェネラティブな生活・活動を実践しています。

  • 山からゴロゴロと落ちてきた&流れてきたであろう大きな岩石が転がる屋久島のビーチ。

  • 子どもが岩に登りたがるのって、本能なんでしょうか(笑)。

  • 大きな岩をたどって行った先に、川と滝が。美しさとスケールの大きさに圧倒されます。

  • 一日中屋久島の自然に抱かれた後は、感謝を胸に島の惠みをいただくディナーを皆で楽しみました。