ロンドンの学年末|トリニダード・トバゴの親友一家との出会いは宝物

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ロンドン発、アナウンサー秋元玲奈の海外子育てニュース

名前
秋元玲奈 / Rena Akimoto
家族
5人(7歳の男の子、3歳の双子の男の子)
所在地
ロンドン
お仕事
フリーアナウンサー
URL
秋元玲奈(@rena_akimoto)Instagram
URL1
Rena Akimoto Official Website

ロンドン発、アナウンサー秋元玲奈の海外子育てニュース

ロンドンの中心部で暮らして3年が経ちました。

この街で子育てをしていると、日々、多様性という言葉の真の意味を実感します。街を歩けば、行き交う人々の言語も、服装も、価値観も実に多様。学校や公園といった生活のあらゆる場面で、世界の縮図のような環境が広がっています。このような場所で子どもを育てられることは、何ものにも代えがたい経験だと感じています。

その一方で、多様性を支える"流動性" がもたらす現実にもたびたび直面します。ロンドンは国際都市であり、常に人が出入りしています。仕事や任期、家族の事情で移り住む人も多く、親しくなった友人家族と突然別れることも少なくありません。特に学校の年度末の6月は転出が集中する季節。別れが立て続けに訪れることもあり、心の準備が追いつかないこともしばしばです。

今年、我が家にも大きな別れがありました。

長男が新しい学校に転校したのは一昨年のことでした。新しい環境にも臆することなくすぐに馴染み、彼はすぐに友人関係を築いていきました。その中でも特別な存在となったのが、セイドー君という男の子です。

長男が入学するひと月前に彼はトリニダード・トバゴからロンドンへ転校してきていました。セイドー君はとても明るく、誰とでもすぐに打ち解けられるフレンドリーな性格。二人は初対面から意気投合し、休み時間も一緒に過ごしていました。自然と「親友」と呼び合うようになったその関係は、見ているこちらがうれしくなるほどの結びつきでした。

子ども同士の友情が深まるにつれて、親同士の交流も生まれます。最初は学校の送り迎えで交わす挨拶程度だったセイドー君の母親とも次第に会話が弾むようになり、やがて家族ぐるみのお付き合いへと広がっていきました。

彼女はトリニダード・トバゴの外交官としてロンドンに駐在しているとのこと。偶然にも、私の父もかつて外交官としてロンドンに赴任していた経緯があり、私自身も子ども時代をこの街で過ごした経験があります。同じような境遇で異国に暮らす親子を見ていると、当時の自分の姿と重なって見える瞬間がありました。

そして何よりも、彼女との出会いを通して、これまであまり縁のなかったカリブ海の小国について多くを学ぶ機会を得ました。とりわけ印象深かったのは、「ウィンドラッシュ世代」と呼ばれる歴史の話です。

これは第二次世界大戦後のイギリスが、労働力確保のためにカリブ諸国から多くの移民を受け入れた出来事で、その後の多文化社会の礎となった重要な時代です。現在のロンドンにカリブ系住民が多く暮らしている背景を、私は彼女の話から実感をもって理解することができました。

一方で、彼女も日本文化に深い関心を寄せてくれました。我が家に来て、人生で初めてたこ焼きにチャレンジしたり、去年長男がステージに立ったジャパン祭りでは一家でトラファルガー広場まで応援に来てくれました。国境や文化を越えて築かれた関係性が、こうして互いの行事や文化を応援し合えるまでに育まれたことは、私にとって大きな喜びでした。

しかし、こうした交流がいつまでも続くわけではありませんでした。

今年、トリニダード・トバゴで政権が交代し、彼女は外交官としての任務を終え、帰国することになりました。日本のように政権交代が直接的に外交官の任命に影響することが少ない国とは異なり、彼女の国では政治体制の変化が人事にも及ぶのだそうです。

別れの日、子どもたちに悔いが残らないようにと、学校の帰りに公園で遊び、皆でピザを食べに行きました。その帰り道、「また会おうね」とハグをし、互いに涙をこらえるのがやっと。子どもたちも静かにその重みを感じ取っていたように思います。

ロンドンは出会いに満ちた街です。そして同時に、別れを数多く経験する街でもあります。しかし、だからこそ、ひとつひとつの出会いの重みが心に深く刻まれていきます。国籍も文化も異なる子どもたちの間に育まれた友情は、我が子にとっても、そして私にとってもかけがえのない宝物となりました。出会いがあるからこそ、別れがある。だからこそ出会いは尊い。

ロンドンでの日々は子どもたちのなかにそんな感覚を静かに、けれど確かに育んでくれているように思います。そしてそれは、いつかきっと世界を広く見つめる眼差しへとつながっていくことでしょう。



〈秋元玲奈さん連載〉
ロンドン発、アナウンサー秋元玲奈の海外子育てニュース

       
  • 親友のセイドー君と長男

  • トリニダード・トバゴ外交公館にて

  • ジャパン祭りでの思い出

          
  • 別れの日

  • 最近ではポケモンで遊んだり、マカレナを踊ったり。大人になったら日本×トリニダード・トバゴという異色コンビでYouTubeを始めることを約束するほどの仲良し。住む場所は違っても友情がずっと続くことを願います。

  • 外交官として働くセイドー君のママは、カリブ海のラム酒などを紹介するパーティに毎年、私と夫を招待してくれました。華やかなサンバダンサーに、スチールパンが奏でる音楽など、イギリスにいながらカリブ海の雰囲気を堪能させてもらいました。

  • 一家で来てくれたジャパン祭りではお好み焼きに挑戦して、美味しいと喜んでいました。トリニダードに戻った今も先日行われた参議院選の結果について質問のメールが来たり、私たち家族をきっかけに日本に本当に興味を持ってくれているのが伝わり嬉しいです。

  • 様々なバックグラウンドを持つ子どもたちが、お互いの文化や国を尊重しながら同じ環境で一緒に学ぶ。月並みかもしれませんが、このことがロンドンで私たちが子どもを育てたいと思う一番の理由になっています。