「無理じゃない?」親の思い込みが支配する、子どもたちの成長の土台

ロンドン発、アナウンサー秋元玲奈の海外子育てニュース
- 名前
- 秋元玲奈 / Rena Akimoto
- 家族
- 5人(8歳の男の子、4歳の双子の男の子)
- 所在地
- ロンドン
- お仕事
- フリーアナウンサー
- URL1
- 秋元玲奈(@rena_akimoto)Instagram
- URL2
- Rena Akimoto Official Website
【ロンドン発、アナウンサー秋元玲奈の海外子育てニュース】
「娘が少しかわいそうで......」
先日、ロンドンで子育てをする日本人のママ友が、そんな話をしてくれました。
娘さんはバレエ教室に通っています。教室には、ロシアや東欧系の子どもたちがたくさんいます。長い手足、すっと伸びた首、まるで絵本から飛び出してきたような容姿。レオタード姿になると、その違いはなおさら際立ちます。
「日本人の娘を見ていると、親の私の方が切なくなってしまうんです」
その気持ちはよくわかります。親になってからというもの、子どもが感じてもいない痛みを勝手に想像し、先回りして心配することが増えました。
でも、ふと尋ねました。
「娘さん自身は気にしているの?」
返ってきた答えは、拍子抜けするほどあっさりしていました。
「全然。毎週楽しそうに通ってる」
その瞬間、その場にいた全員が笑顔になりました。気にしているのは、お母さんだけだったのです。
「それなら大丈夫。そんな環境でも堂々と踊っている娘さんを、誇りに思ってあげたらいいんじゃない?」
そんなことを話しながら、私は数日前の自分を思い出していました。実は、私も全く同じことをしていたのです。
長男の学校では、毎年サマーフェアでタレントショーが開かれます。歌でもダンスでも楽器でも、何でもいい。子どもたちが「自分の好き」を披露する、学校中が楽しみにしているイベントです。開催まであと3日というタイミングで、長男が突然言いました。
「ぼくも出たい」
その瞬間、私は反射的に口を開いていました。
「え?何をするの?」
「披露できるものなんてあった?」
「ピアノもギターも練習してないよね?」
今振り返ると、ひどい質問です。本人は「できる」と信じているのに、母親である私は「本当に?」と疑うことから始めてしまったのです。
「じゃあ、一度パパとママに見せて」
そう伝えると、その日の夜、長男はリビングをステージに変えました。音楽が流れ、歌い始め、踊り、表情まで作り込んだミュージカル仕立てのパフォーマンス。夫と私は顔を見合わせました。
「え......、いつ練習したの?」
知らないうちに、こんなにも準備していたなんて。本人は終わると満足そうに一言。
「どうだった?」
その表情には、「できたかな?」という不安はありません。「よかったでしょ?」という自信しかありませんでした。 その姿を見たとき、胸の奥が痛みました。自己肯定感が高い息子。危うくそれを削ろうとしていたのは、親の私だったのです。
考えてみれば、冒頭のバレエの話と似た構図でした。子どもは、自分を案外、他人と比べていません。周りより背が低いことも、手足が短いことも、経験が少ないことも、「やってみたい」という気持ちの前では大した問題ではないのでしょう。
一方で、大人は違います。
「あの子の方が上手」
「失敗したら恥ずかしい」
「傷ついたらかわいそう」
そして、その不安を「子どものため」という優しい包装紙で包み、本人に手渡してしまうことがあります。
イギリスで子育てをしていて強く感じるのは、学校が子どもの自己肯定感を育てることを、とても自然に実践していることです。
「やってみたいなら、やってごらん」
そんな空気が、教室にも校庭にもあります。
タレントショーでも、完成度だけが評価されるわけではありません。プロ顔負けのバイオリン演奏にも拍手が送られますが、振り付けを少し忘れてしまったダンスにも、緊張で途中止まってしまった歌にも、同じように温かい拍手が送られます。 そこでは、「うまくできた子」が認められるのではなく、「挑戦した子」が歓迎されているように見えるのです。
もちろん、日本の教育にも素晴らしいところはたくさんあります。
ただ、私たち親世代は、「謙遜は美徳」「出る杭は打たれる」という価値観の中で育ってきました。私自身、「人前に出るなら、きちんと準備をしてから」「中途半端なものを見せてはいけない」という感覚が、どこか体に染みついています。
その文化は、人を思いやる心や協調性を育ててくれました。
ただ、その感覚が強すぎると、「自己肯定感」という言葉に少し居心地の悪さを覚えてしまうことがあります。でも、本当の自己肯定感とは、「私は誰よりすごい」と思うことではない気がするのです。
「失敗しても大丈夫」
「挑戦してみよう」
「私は私でいい」
そう思える心の土台です。
そして、その土台を育てるために一番必要なのは、子どもへの特別な声掛けではなく、親自身が子どもの可能性を信じることなのかもしれません。
以前手に取った本で、心理学者アルバート・バンデューラ氏は人が行動を起こす原動力として「自己効力感(Self-efficacy)」を挙げていました。つまり、最初から確かな実力があるから挑戦するのではなく、「できるかもしれない」と思えるから一歩を踏み出せる。子どもたちは、その感覚を本能的に持っているように見えます。
親の役割は、その火を大きくすることはできなくても、せめて消さないことなのかもしれません。
「無理じゃない?」
その一言を飲み込んで、
「やってみたいんだね」
そう返せる親でありたい。
ロンドンで暮らし始めてから、私は教育制度だけではなく、自分自身の子どもへの向き合い方も少しずつ学び直しています。 まずは親が、自分の思い込みや不安に気づくこと。そして、子どもが自分を信じる力を、信じてみること。
実は、それがいちばん難しく、そしていちばん大切な学びなのだと感じています。
〈秋元玲奈さん連載〉
ロンドン発、アナウンサー秋元玲奈の海外子育てニュース