失敗させる子育て 海外で触れたJust Do Itという挑戦

Choice

「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

名前
佐久間麗安 / Rena Sakuma
家族
4人 (12歳男の子と10歳女の子)
所在地
東京都
お仕事
Bright Choice編集長
URL
Rena Sakuma (@renanarena0513) Instagram

「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て
"The unexamined life is not worth living."
「内省のない人生は生きる価値がない。」
- プラトンの本『ソクラテスの弁明』より

夏休みは、久しぶりに海外旅行に行きました。今年のデスティネーションはというと、スペイン、アリカンテ。
観光地化されていない、英語も通じないこのエリアに、19歳で世界トップ10にランクインした新星、カルロス・アルカラス選手が拠点とするテニスアカデミーがあります。せっかく久しぶりの海外なのですから、日本では得られない刺激を求めて、家族で一週間のテニス合宿に来たのです。

子どもが好きだと思えることがあるのなら、その経験を豊かにしてくれるのは、好きなことを共有できる仲間との関係でしょう。チームメンバー、先生やコーチ、ライバル、同じ好きを通して紡がれる多彩な関係性こそ、子どもの人間性を織りなす素材であると思います。その関係性の一本一本がどのような色をするのかは、相手のあり方に大きく影響するもの。海外に行けば特に、物事の捉え方やアプローチの仕方、根幹となるメンタリティの部分にキラリと光るものを感じることがあります。ですから、我が家では、チャンスさえあれば、その都度、海外で好きなことに挑戦させることにしているのです。これまで、その金糸が織り込まれていくことによって、たしかに子どものあり方に立体感が生まれたように感じています。上手くいかないことへの強度や、外に向けた好奇心という弾力性といった、自分の力で自分自身を織りなす力が養われたように感じます。

今回の海外旅行では、大人である私自身も、生きていく上で大切な価値観、いわゆるライフスキルを再認識する体験をしました。そしてそれは、私にとって新しい子育ての信条となりました。

子どものサマーキャンプで訪れたテニスアカデミーで、私たち夫婦もせっかくだからといって大人向けのテニスレッスンに挑戦。真夏のスペインの燃えるように熱い赤土の上でコーチから受けた数々のアドバイスの中で、もっとも心に響いた言葉があります。

"Just Do It."

私はこのレッスンで、ナイキの広告コピーでもお馴染みのフレーズの意味が「失敗しなさい」、ということだと解釈するようになりました。

教育現場では、子どもの個性が大切だといわれて久しくなりました。
私も子育てをしながら、それが子どものうちから湧く意欲の源泉であり、心のエネルギーであると感じています。それでも、いままでわかっていなかったのは、「失敗にこそ個性が現れる」、ということ。

テニスコートのネットの向こう側から、コーチが叫ぶのです。
"Just Do It!" "Don't be afraid of making mistakes!"
"Then, I can advise and you can make improvements."
「怖がらないで、失敗してごらんよ!」
「そうして初めて僕はいいアドバイスができるし、あなたが上手くなれるんだから。」

セミプライベートでご一緒した、イギリス人ママ Lucyも、同じことをいわれます。
私たちのような、20世紀の教育を受けてきた怖がりの大人たちは、とにかく「失敗したくない」。とりあえず、コートに入れて"安心"したいのです。

面白かったのは、そんな私たちに対して、コーチがお手本を見せることがなかったこと。コーチは、グループレッスンにありがちな、誰でも上手くいくような正攻法のようなものを教えて、私のスピンのかかった打ち方とLucyのフラットな打ち方を修正しようとはしなかったのです。

私とLucyのストロークにはそれぞれに良さがあって、それぞれにミスのパターンがある。だから、私固有の失敗、Lucy固有の失敗に対して、コーチは別々にアドバイスするのです。そうして、私は私、LucyはLucyなりに試行錯誤をして「自分らしい」テニスが磨かれる。そのプロセスは、それぞれにユニークなものでした。

率直な感想をいえば、これまで受けてきたどんなレッスンよりも楽しかった。

「あぁ、勉強にしても、スポーツにしても、アートにしても、こんな風に自分と向き合うことができていたら・・」と、じわっと心にしみた感覚でした。もしもこれまで子どもにこのような教育に触れる機会を与えることができていたのであれば、こんなに嬉しいことはありません。

冒頭のソクラテスの名言を借りれば、それは「人生を内省」するということ。それは、自分と向き合い、試行錯誤することで、自分の知性が試されることを意味するのではないかと考えます。

それにしても、人間というのは、「できないこと」という個性を他人に認めてもらえたとき、とても前向きになれるものですね。"個性ある失敗"と上手く向き合えたとき、「できるかもしれない」という想いが自然と芽生えて、試行錯誤のプロセスが楽しくなるのでしょう。そうして、心の電池がエネルギーで充電される感覚を覚えれば、挑戦することが楽しくなって、着実に前進できるのです。

そして、もしも誰かがあなたの試行錯誤するプロセスを見守ってくれて、あなたらしい可能性を共に信じ、共に見出すことができたのなら、こんなにも幸せな人生はありません。

"Come on!"
"Vamos!"
コーチが叫ぶ。
失敗しても次、また失敗だったとしても次、次!!
まさに私は、あのスペインのテニスコートで、自分だけのチャレンジを心から楽しんだのです。

「教育の多様性」が大切とされる所以は、それが「失敗の多様性」と向き合うことだからなのでしょう。子どもの知性が試される作業に、子どもの個性が現れてくるのです。例えば、少人数制のクラスがよいとされるのは、子どもの多種多様なトライアル&エラーと寄り添えるから。そうして、多種多様な才能が芽生えるのですから。それは、子ども一人ひとりが自分だけの挑戦を楽しむことのできる環境といえます。

いま、多様性を尊重する海外大学進学でも、リベラルアーツに見られるような「全人教育」の大切さが謳われ、入試にあたっても一層「人間力」の部分が問われるようになったことにも頷けます。たとえば、魅力的なエッセイを書けるかどうかは、それまでにどれだけ自分の知性を試される体験をしてきたか、につきます。それは、一つの解法や正攻法を追っているだけでは身につくことはありません。

さて、スペインから帰国後、塾の夏期講習が始まり、早速子どもが「つまらない」、と文句をいうようになりました。理由を聞けば、ただ問題を解いて答え合わせをしている時間が長いのだというのです。

日本の教育というのは、教室という小さな箱に子どもたちを押し込めて、一つの解き方に収めようとすることが多いように感じられます。テスト問題の間違いがあれば、「正解は導くには・・」、と解説をする。娘の持って帰ってくる授業ノートには、必ず、お手本の解き方が写されています。良質な教育とは、正攻法を一つ示すことではなくて、間違いを通して子ども一人ひとりの学びの姿勢やアプローチの仕方と向き合うことだというのに。子どもが生涯にわたって試されるのは、知識の量ではなく、知性の成熟度なのですから。

例えば、うちの子どもたちは、兄も、妹も、決まって模試の最初の大問に出る、少数と分数が入り混じった四則混合算という、意地の悪い計算問題で間違えるのですが、間違え方の性質は全く異なります。兄は、思考は丁寧だけれども、字が汚くて計算の過程を見失うという不器用さに起因する一方で、妹の方は、字はきれいだけれども、時間制限がある中でせっかちになってしまって、計算のプロセスが雑になるから。正解は一つでも、同じ解答に導くためのアドバイスは、それぞれに個別具体的なものでなくては効力がありません。お手本の解法を見せるだけでは、子どもの知性は試されることはないし、そんなことでは子どもたちだって士気を失うのです。

「学校に行きたくない」
「塾に行きたくない」
「勉強したくない」

子どもがもしそういったのなら、それはもしかしたら、そこに「失敗させる文化」がないからかもしれません。

とはいうものの、子どもの「失敗と向き合う」なんて、親は平静ではいられないものですよね。
子どもの失敗と対峙した時、親は少なからずがっかりします。
中学受験生を持つ親御さんであれば、自分の子どものテストの結果と志望校の偏差値を比べて不安になり、受験の時期が近付けば、焦るかもしれません。
スポーツで試合に勝てなければ、悔しいかもしれません。
子どもがお友達とのトラブルに巻き込まれれば、悲しいと思うかもしれません。

私たち親は、そして、子どもだって物心つけば、周囲や自分の置かれた環境が気になって仕方がない。失敗に対する不安や焦りは、いま目にする周辺のことが頭から離れないから。それもそのはず、「○○校の今年の倍率は〇〇らしい」、だとか、「○○くんは○○で優勝したらしい」だとか、「いま、○○さんと○○さんがケンカしたらしい」だとか、さまざまな雑音を日々耳にしているのですから。

親が日常の雑音に囚われ不安に感じるのは、「いま」だけに焦点を合わせているからでしょう。でも、子どもの長い人生、その子のピークは決して「いま」にあるわけではないのではないでしょうか。

子どもの習い事の送迎中によく聞く、Apple Musicの 『Aリスト』というプレイリストの中の一曲に、 "It's just a bad day, not a bad life."なんて歌詞があります。茶道のお床でもよく目にする禅の精神、「日日是好日」にも通ずるものがあると思うのですが、親はどんな日も、それが雨の日でも晴れの日でも、そんな心構えをもって子育てしたいものです。今日この日は上手くいかないかもしれないけれど、大切なのは、その日が子どもの知性の土壌になるということ。子どもがその日に挑戦することに意味があるということ。たとえその日、杓子定規な世間に揶揄されたとしても、子どもの長い人生におけるその日の真価が変わることはありません。私たち親は、子ども自身を織りなす立体感ある人生を、一日一日違った色をするその人間性を楽しみながら、多方面から見守っていてあげたいものです。

"Just Do It."
「失敗しなさい。」

そういって、子どもに挑戦を楽しませてあげて。
失敗したら、叱咤激励しながら子どもの個性にとことん付き合ってあげる。

嬉しい日も、歯がゆい日も、大切な一日。
そうやって、子どもは勝手に自分の人生を織りなすようになると思うのです。

〈佐久間麗安連載〉
「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

       
  • エッセイ重視の海外進学

  • スペインのテニスアカデミーでサマーキャンプ

  • Lucyとのレッスン

          
  • アカデミーのみんなとナダルを応援!

  • バレンシア旅行

  • 毎日トマトを食す

  • 海外教育トレンドを知りたかったら、お勧めしたい書籍(1)。中でも、Chapter14のハーバード大学をはじめとするトップスクール合格者のエッセイサンプルの抜粋は、多様性重視の海外で求められる学生像のヒントになるはず。

  • 今回テニスのサマーキャンプで訪れたのは、スペインのJC Ferrero Equelite Sport Academy20228月現在ATPランキング4位のカルロス・アルカラス選手が拠点としています。

  • 海外のグループレッスンは、一般的に最大で4名くらいまで。東京では10人ほどでグループレッスンをしているといったら、「そんなのレッスンとして成り立たないよ」と驚かれました。確かに、それでは一人ひとりのニーズには答えられないですものね。

  • 滞在期間中はウィンブルドンシーズンでした。ナダルの準々決勝の試合はライブ中継をみんなで一丸となって応援しながら観戦しました。海外の同志と好きなことを共有できた、楽しい体験でした。

  • テニスアカデミーに入る前に、バレンシアを旅行しました。久しぶりの家族旅行であり、初めてのヨーロッパ旅行は、とても良い思い出になりました。

  • 海外では、どうしても日本の食事が恋しくなりますが、その地のお気に入りの食事を見つけるようにしています。スペインでは、肉厚のトマトとオリーブが美味しくて、決まって毎日トマトサラダを食べていました。子どもたちのお気に入りは、フルーツとステーキ。