海外ボーディングスクール受験に向けて「好き嫌い」の濃淡を描くこと

Choice

「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

名前
佐久間麗安 / Rena Sakuma
家族
4人 (12歳男の子と10歳女の子)
所在地
東京都
お仕事
Bright Choice編集長
URL
Rena Sakuma (@renanarena0513) Instagram

「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

未来はこうとか 理想はこうとか
心に土足で来た侵略者は
正義だとか 君のためだとか
銃を片手に身勝手な愛を叫んだ
――― Official髭男dism 『Universe』 より

「好き嫌い」に素直な子どもは本来、"自分で決める能力"が大人よりも高いのではないか、というのが、最近私が思うところです。しかし、それは親の吐息によって、簡単に消えてしまう繊細な灯であるということもまた、私たちは知っておく必要があります。子どもというのは、いつも親の喜ぶ顔が見たいのですから・・。

私たち親は「身勝手な愛を叫んで」子どもの大切な領域をじゅうりんしていないか、常に意識しておいた方がよいように思います。

さて、我が家では、この時期に限ってテレビをつけっぱなしで全米オープンテニスを観ています。今年は、日系の選手が世界のトッププレイヤーの活躍が目立ちました。日系オーストラリア人のヒジカタ選手、日系アメリカ人のナカシマ選手、どちらにも共通するのは、マイノリティとして自力で実績をつくったということでしょう。また、マイノリティという観点でいうと、シエラレオネ移民であるアメリカのティアフォの活躍にも目を見張るものがありました。

私たち日本人は、この島国を出ればマイノリティの日系人として生きていかねばなりません。インフレの進む海外先進国に行こうものなら、現地で何の後ろ盾もない中で稼ぐ力をつけないとなりません。昨年ボーディングスクール見学で息子と行ったロサンゼルスでは、スーパーなどでみる食品や生活用品のコストは、日本のおよそ倍に近いのではないだろうか、と感じました。現在は、当時より円安が進んでいますから、そのインパクトはさらに大きくなっています。いまではディズニーの動画配信サービスに押されがちなNetflixですが、Netflixがハリウッドを撮影拠点とするようになってから、ロスの不動産価格は高騰しています。

子どもの海外進学を検討される方々には、海外でも稼げるようになってほしいと願う方が多いのではないかと推察します。しかし、インターナショナル生の割合が高いとされるアメリカボーディングスクールですら、海外の学生の比率は2割を切ります。日本人は、数えるほどしかいません。そんな中で、子どもが埋もれないようにするのは、私たちが想像する以上に大変なことです。ボーディングスクール受験でよくいわれるのは、「子ども自身が決心していかなくては、進学先でサバイブできない」、ということです。

学費を稼ぐとか、英語力をつけるための教育環境を整えるとかいうこと以前に、まず親にしてあげられることといえば、一体世の中で何を成し遂げたいのか、子どもの決める力を信じてあげることなのでしょう。

我が家では、ときにエゴではないかと思えることがあったとしても、子どもたちが自分でものごと決められるようになってきているように見受けられます。もし親である私たちに寄与できたことがあるとすれば、それは子どもの「好き嫌い」を聞くという、とてもシンプルな作業だったかもしれません。「好き嫌い」と「得意・不得意」は相関性があるものですが、それがうちの子どもたち。何でもできるように均すようなことはあまりしませんでした。それでは子育てがつまらなくなると思えたのでしょう。

教育ジャーナリストのおおたとしまささんの 『21世紀の「男の子」の親たちへー男子校の先生たちからのアドバイス』(祥伝社)のまえがきに、「先行きの不透明な時代には、いい意味で、『出たとこ勝負』ができるひとに育てるしかないのです」という一節がありますが、いま息子の海外ボーディングスクール受験で、まさにその力が問われていると感じます。

学校には毎年何千通もの応募が届くそうですから、「自分がいま持っているもの」で勝負するしかありません。その際に一番にアドミッションの目を引くのは、優秀な成績やSSATのスコアではなく、エッセイにみる個性あるストーリーだといわれています。それは、長所も短所もひっくるめた、その子にしかない「学びの姿勢」であり、その源泉は、子どもの「好き嫌い」という濃淡ある個性です。

子どもが「好き嫌い」の感性をもつことは、「好きなことはやる、嫌いなことはしない」という我儘とは違います。人生の時間は限られていますから、「好きなこと」であれば、「コミットメントの程度」によってどのくらいの時間を投じるのかは考える必要がありますし、「嫌いなこと」であってもやらなければリスクの生じるものがあります。

息子の場合、一番好きなテニスについての約束事は、「自分なりにやりきること」。毎日平均して3時間も練習すれば、"自分のアイデンテティ" と切り離せなくなりますから。好きなことというのは、アイデンテティに占める割合が高いほど、誰と比較しても、何があっても、やりきれるだけのコミットメント力が求められるように思うのです。

もちろん、進路という、安全なレールを外れてしまうかもしれない、という不安がないわけではありません。「勉強の時間を削るリスク」については、子どもたちに口酸っぱく伝えてきました。

例えば、インターナショナルスクールに通うのであれば、「日本語を疎かにするリスク」(漢字の多い日本の駅構内の看板が読めなくなる、という生活面のことから、海外でのキャリアに躓いたら母国に帰ってこられない、という将来のことまで)があります。子どもが嫌がる公文の国語のドリルですが、「毎日5枚やるだけでそのリスクがなくなるよ」と伝えれば、子どもはそれくらい我慢して自分からやれるようになります。

日本ではよく、「中学受験は親子の受験」といわれます。本当にそうでしょうか?海外ボーディングスクールに進学するような、意思のある子どもたちを見ていると、疑問に思われます。
中学受験をする」
中学受験をしない
これら2つの選択肢をきちんと提示できる親は多くないと思います。我が家でも一度中学受験を検討しましたが、私もその一人でした。最近では、中学受験をするにも、算数一教科受験や英語受験、サイエンス特化コースや国際生コースなど、選択肢が増えていますから、一度、子どもと一緒に考えてあげたらいいのです。

子どもの判断材料は、「好き嫌い」に依拠する部分が大きいかもしれません。しかし、それを世間知らずと甘くみてはならないと思うのです。結局のところ、先行きの見えない「出たとこ勝負」の世の中なのですから。
生きていれば、"どうなるかなんて誰にも分からないけれど決めなくてはならない" 局面があります。そんなとき人は、合理性や説得性といった、学校で教わる均質なこととは別次元の能力を求められます。

子どもが「好き嫌い」に素直になって、自分にとって大切な何かを自分で決められたら、きっとその後の人生の決断力に繋がるのではないでしょうか。日本以外のどこかでマイノリティとして生きるのであれば、必要不可欠な力となるでしょう。

いま実業家や経営者たちが流行りのメディテーションや占いに頼るのは、不確定要素の多い決断を強いられることが多いから。そんな決断を迫られたときは、筋道を立ててコントロールすることを諦めた方がいい。それができれば、どんな結果であろうとも、本望だと思うのです。

だから、「未来はこうとか 理想はこうとか」なんていって親が子どもの生き方を管理すべきではないのです。そうやって子どもを幸せにしてあげることはできません。

いずれ、子ども自身が自分の生き方を決められるようになると信じて。思春期あたりでそれができるようになっていたら、よいのですが。

それまで親は、子どもの「好き嫌い」の濃淡を一緒に描いていってあげたらよいのでしょう。

〈佐久間麗安連載〉
「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

  • 息子の親友は、小5の時に自分で海外進学を決めました。夏休みの帰国中は、一緒にディズニーランドへ。子どもというのは、思い切りある決断をするものですね。

  • 昨年はカリフォルニアのオーハイにある、Weil Tennis Academyというテニス ボーディングスクールを見学しにいきました。到着翌日はLAのサンタモニカへ。

  • オーハイのWeil Tennis Academyでは、一週間テニスと授業を体験しました。スポーツスカラシップも一般的な海外には、テニスと勉強を頑張ることのできる文武両道の環境がたくさんあります。

  • 息子のレッスン中は、オーガニックな街で知られるオーハイでワーケーション。コンブチャバーでの一杯が美味しかった。

  • ボーディングスクール受験対策には、好きな本を読むようにいわれます。みんなと同じお決まりの書籍というのは、あまりありません。

  • 海外に行くと、サイエンスミュージアムにいくことが多いです。LAでは、本物のスペースシャトル・エンデバーの展示のされているCalifornia Science Centerへ。