世界に羽ばたく子どもにとって大切な「日本語」という情操教育

Choice

「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

名前
佐久間麗安 / Rena Sakuma
家族
4人 (12歳男の子と10歳女の子)
所在地
東京都
お仕事
Bright Choice編集長
URL
Rena Sakuma (@renanarena0513) Instagram

「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

「日本語ってどこまで必要?」
インターナショナルスクールに子どもを通わせる親の間では永遠のトピックです。

「これからの時代、お勉強は英語で!」
と、割り切ったはずのわたしたち親が、日本語教育のことで後ろ髪を引かれてしまうのは、それが私たちの「母国語」だからでしょう。

インターナショナルスクールでは、小学校中学年辺りから、漢字が読めなくなってくる、兄妹の会話が英語になる・・など日本語力が乏しく感じられることが増えてきます。日本人の多くの親は、この事態に戸惑ってしまうもの。それは、日本語という母国語が、わたしたちの心を育ててくれたという実感があるからでしょう。子育てでわたしたち親が一番気にかけるのは、実はお勉強よりも、「子どもの内面」だったりします。だから、子育てで「日本語」が欠けてくると不安に思えてくるのかもしれません。

インターナショナルスクール入学当初、わたしたち夫婦のバイリンガル教育の方針は、
英語でも日本語でも新聞を読めるようになること」。
いま思えば、安直にも高いハードルを設定したものです (笑)

入学したインターナショナルスクールは、英語も日本語もネイティブレベルで学年相当のしっかりしたカリキュラムがあり、子どもたちは英語に加えて、国語の読書に作文、漢字ドリルに、四字熟語や慣用句、日本の歴史まで学習していて、本当に頑張ってきました。

それなりの勉強時間を要する日本語の学習には苦労しましたが、子どもたちが小学校を終えようとするいま、親として当時もった「母国語を大切に」という感情を無下にしないでよかったと思います。
それは、バイリンガル子育てをする中で、日本語という母国語に助けられたと思うことが大きく3つあるから。
それというのは、
1. お勉強に自信がもてる
2. 情緒が安定する
3. チャレンジ精神が養われる
ということ。

これは、日本語力も高めたことで、子どもたちが 「THINKER」 になれたからだと思います。子どもなので、それでも落ち着きのないことは多々あるのですが(笑)、結果的に、日本語があったことで、学習面でも、そして精神面でも、ある程度分別のつく子どもに成長できたと思えるのです。

バイリンガル教育理論の世界的権威 ジム・カミンズ教授によれば、言語には
① 日常会話で用いるコミュニケーション言語と、
② 勉強に必要な学習言語の、
2つの役割があるといいます。

②の方が抽象的で概念的なことを深く思慮する必要があるのですが、わたしたちはもともと、母国語を使っての方が、抽象的なことを扱いやすい。だから、日本語という母国語には、子どもを本当に賢い子に育てる力があるのだと思うのです。

我が家の場合、まだ道半ばではありますが、子育てにおいて、少しずつ日本語の底力を感じられるようになってきました。

【1.お勉強に自信がもてる】
わたしの子どもたちの場合、日本語力が、学校の英語でのお勉強をスムーズにしてくれたように思います。わかりやすいのが、「算数」です。

OECD(経済協力開発機構)が各国の義務教育終了段階の15歳の子どもを対象に実施する学力比較調査PISA(Programme for International Student Assessment)によると、2018年の日本は数学的リテラシーで世界1位。

たしかに、公文や算数道場、学習塾など、日本の算数教育の環境は素晴らしい。子どもたちは公文と塾にお世話になりましたが、大変おかげ様で、学校の算数の成績はE( Excellent )が並びます。
インターナショナルスクールの算数の授業では、正解に導くためのプロセスを重視するので、英語での説明力が求められます。日本語ですでに概念的なことを認知しているから、おのずと英語で思考する力も備わるようなのです。

科学的リテラシーも世界2位の日本では、実験教室、書籍や実験キットなど、サイエンス系の教育コンテンツも豊富。
わたしの子どもたちは『子どもの科学』(誠文堂新光社)を購読していて、毎月楽しみに読んでいます。日本語で知っていることを英語に転用するだけなので、学校でのサイエンスの授業の理解も早い。

日本語で先取りできていたことで、子どもたちは学校の勉強にはあまり苦労せずにきました。特に理数系の科目については自信を持てているようです。

また、将来海外進学を検討する場合も、特に理数系の分野において日本語で先取りしておくと、高校進学した際に大きなアドバンテージを得られそうです。たとえば、アメリカのボーディングスクールでは、得意な科目はCL(カレッジレベル)の授業を履修できたりするのですが、算数の科目は日本で学習を進めておけば、このCLが取りやすいようです。また、理数系のお勉強に割く時間を他の教科に充てることができるのですから、総じて成績も上がることが期待できそうです。

そうして、学ぶことに自信が持てることで、子ども自身の自己肯定感も高まるのではないでしょうか。

【2.情緒が安定する】
「家庭では日本語」というのが、我が家の方針。当時は子どもたちが英語と日本語を混同しないように、ということが主な理由でした。

ですが、小学校高学年くらいから、子どもたちがぐっと落ち着いたというか、大人びたというか。いま振り返ると、子どもの精神的な安定を促したのは、母国語で親子が会話してきたからではないか、と感じるのです。

家庭は、一つ屋根の下で生活を共にしながら、子どもの個性を認め、社会を生きていくための価値観を共有できる環境。一緒に映画を観て感動したり、兄妹喧嘩をして親に叱られたり、親の人生経験を語ったり、学校でトラブルがあれば共に向き合ったり、悲しいことがあったら泣きついたり。母国語の温かみは、そのようなやり取りから生まれます。

先日、親子で『スラムダンク』の映画を観てきました。日本一の強豪と対戦するインターハイの試合が舞台。完全に負け機運だった局面で、安西コーチが「負けたらそこで試合終了だよ」という、漫画でも有名なあのワンシーンもリアルに描かれていました。映画館から出ると娘が、「あの言葉、ママもテニスの試合でいってくれたよね、よく覚えているよ」といったのでした。わたしたち親子はそうやって、母国語で心を通わせながら、親子で心を動かしながら、子どもの心を育ててきたのでしょう。

バイリンガルであれ、モノリンガルであれ、実はなんでもない日々の「親子の対話」が、子どもの心の奥底の柔らかいところまで届いて、子どもの知性や思慮深さを育てるのではないかと思われます。子どもの心に届く言葉は、やはり母国語であることが多いと思うのです。

母国語には、子どもを芯の強い子に育てる力があるものだな、と思った出来事でした。

【3.チャレンジ精神が養われる】
「子どもに海外進学留学をしてほしい」と思うのなら、語学力よりも何よりも、子どもが自ら「チャレンジしたい」と思えなければなりません。

大切なのは、「自分のコンフォートゾーンを抜け出せる精神力」。
それがなければ、いくら英語ができても子どもは海外で生きていけません。

日本という国は、他の世界から見たら、ユートピアのような島国。(小学生の子どもが、一人で外を歩き回れる環境なんて、世界になかなかありません。)
もっというなら、日本のインターナショナルスクールは天国のような環境です。
日本人が尊重される国際環境なんて、きっと世界のどこにもないのですから。

それは、子どももうすうす気づいていることなのでしょう。わたしの娘は「海外に行きたくない」、というのですが、それも当然のこと。日本ほど暮らしやすい国はないし、外の世界は怖いものです。

それでも、息子が小学校5年生から「海外に行きたい」と恐れずいうようになったことには、わたしたち両親も驚いたものです。

もしかしたら、これまで日本語で「自分を内省すること」ができたからなのかもしれません。我が家の場合、親子で子どもの興味関心について「日本語」で会話してきたことが大きく影響したと思います。

ほぼ毎日テニスを頑張ってきた息子ですが、少し前から「テニス日誌」をつけるようになりました。スポーツとは、フィジカルもメンタルも鍛えられるもの。息子は、毎日その日のテニスの練習を振り返って自分のフィジカル面、メンタル面を内省する時間を設け、丁寧に書き留めるのですが、この作業が彼の「意思確認」となっているようです。

「今日の練習/試合では○○だったので、今後○○に取り組みたい」とか、
「自分の目標は○○だ」など、

毎日の練習が惰性にならないように、「いまの自分」、「なりたい自分」、「そのために必要なこと」を再確認しています。親もそれを読んで叱咤激励のコメントをするので、いまでは、この「テニス日誌」が親子の交換日誌にもなっています。そして、この親子の対話も、日本語で書いた方が、心の奥底まで届く感じがするのです。

少なからず、そんな対話の積み重ねが、子どものチャレンジ精神に寄与したと思えます。
親は子どもの個性を一番に理解する存在であるからこそ、子どもの興味関心という個性について日本語で語り合うことは、子どもの心を逞しくするのかもしれません。

世界に出れば、「日本人であること」が必然的に個性となります。アジア人差別もあるので、それをポジティブに思えないこともあるでしょう。
先日、息子が海外に行きたいというので、都内のインターナショナルスクールから、アメリカのボーディングスクールのトップ校に進学した高校3年生の学生とスカイプをして学校生活について伺う機会を設けたのですが、その学生も、進学当時は大きなカルチャーショックを受け、辛いこともあったといいます。いよいよ今年は大学受験だそうですが、昨今アメリカでは、優秀なアジア人が第一志望の大学に入れないことが多いそうです。その背景には、コロナを経てアジア人差別があること、アジア人同士の競争も激化していることが背景にあるようです。それでも、理不尽な世界に対して反骨精神をもって頑張る精神力があれば、チャレンジし続けられるのでしょう。そんな逆風があることもなんのその、その学生からはとても前向きな姿勢が見受けられました。

また、息子にいたっても、その後も海外に行きたいという気持ちは変わらないようです。
「ごはんは美味しくないし、日本のように安全でもない。差別など、理不尽なこともたくさんあるかもしれない。だけれども、海外で達成できることがあるから、行きたい」ということなのでしょう。
いまの自分、今後なりたい自分を理解しているから、現状維持よりも、自らの環境を変えることを優先できるのかもしれません。

そうはいっても、まだまだ頼りない若干12歳の息子です。
海外に行っても、親子の交換日誌は続けることを約束しました。

さて、母国語といっても、日本語の重みは家族それぞれ。たとえば、アメリカ人と日本人のハーフの子どもは、英語も日本語も母国語だったりするのですから。
また、特に高尚なことを話す必要もない。我が家でも、テニス日誌しかり、日々の会話しかり、たいしたことのないことばかり話してきたように思います。

でも、そのたわいのない会話の積み重ねに、いま感謝している自分がいる。

大切なのは、「親子で心を通わせられる言語」を通して、子どもの内面の繊細なところまで理解してあげられること。子どもがいつでも立ち返ることのできる「心の拠り所」を築いてあげること。

多様で不安定な世界と共生することを求められる子どもたちにとって、日本語という母国語は、大切な情操教育の一つなのかもしれません。

そうやって、子どもは分別ある逞しい人間になって、世界に羽ばたいていくのでしょう。

〈佐久間麗安連載〉
「子どもの好き」が最大のモチベーション!な国際派子育て

       
  • THE FIRST SLAM DUNK

  • 日日是好日

  • 大好きなばぁばと

          
  • お寿司パーティ

  • 日本語の参考書

  • 「弱気を乗り越え、自分を信じて、立ち向かう」 スラムダンクファンの親だったら、絶対に子どもと共有したいストーリー。繊細な気持ちの移り変わりを鮮やかに描写できるのが、日本のアニメーションの醍醐味ですよね。

  • 祖母が遺してくれた実家の茶の間です。お正月は、この茶室のお床に「好日」のお軸をかけて。海外でも人気の禅(ZEN)の言葉です。子どもたちは、この碁盤で五並べをして遊びます。どんな辛い日でも、今日この日が良い日なのだと思えるよう、逞しく生きていってほしいものです。

  • 祖父母と七五三を祈願したことは、親子にとって素敵な思い出。わたし自身、祖父母に愛され、可愛がられた記憶というのは、どこか自分の自尊心の土壌になっているように感じられます。子どもたちにとっても、そうであったらいいなと思います。

  • じいじの70(古希)のお祝いは、我が家でお寿司パーティをしました。日本でしかできない、美味しいバースデーパーティですね。

  • 家庭教師の先生が見つけてきてくれた、語彙力の問題集。大人も、復習が必要かもしれません()