いちばん大切なことは目に見えない。本質を見極める力を育むには。
「わたしはわたし」自尊心を育む子育て
- 名前
- 浅倉利衣 / Rie Asakura
- 家族
- 4人 (8歳と5歳の女の子)
- 所在地
- 東京都
- お仕事
- コラムニスト
- URL
- Rie Asakura (@rie_asakura) Instagram
"Here is my secret. It's quite simple. One sees clearly only with the heart. Anything essential is invisible to the eyes."
「いいかい?とても簡単なことだ。ものごとはね、心でこそはっきりと見ることができる。いちばん大切なことは、目に見えないんだよ」
私も子どもの頃から大好きな本、「星の王子さま」。その中でも特に好きなフレーズです。
特に"今"の時代の流れの中で、改めて大切なことを私たちに問いかけてくれるような気がします。
たとえば、家族や友達、大切な人に対する感情は、目に見えないもの。
けれども、そこには確かに「絆」や「愛」、「おもいやり」があるはず。
でも全く知らない他人になると、「おもいやり」が広がりにくい世の中だな・・、と感じることがあります。
たとえば、電車内でマタニティマークをつけている妊婦さんに席を譲らないとか、ベビーカー論争とか。
そして先日、それは想像力の欠如が大きな原因の一つなんだな・・、と思い知らされた出来事があったのでシェアさせてください。
私が昨年からシュタイナー教育(人智学)を学ばせていただいている稲垣先生から伺った、東日本大震災後の話です。
先生は、東京をはじめ他の県に移住せざるをえなくなり、移住後更に辛い経験をされた被災者の方々の心のケアをされていました。
というのも、お子さんにいたっては、転校後、新しい学校で「放射能がうつるから寄るな」、とバイ菌扱いされたり、イジメにあった子が何人もいたり、親御さんにいたっては、「補償金出るからいいわよね」、などと全く配慮に欠けた言葉をかけられ、心が病んでしまう方々が多くいらっしゃったからだそうです。
先生のカウンセリンングは被災後5年も続き、ドイツ在住の先生はその間ドイツと日本を行ったり来たりしていたそうですが、「本当にあの時死にたいと思った」という言葉を何度も聞いたそうです。
胸が詰まるようなこの事実、なぜ起きてしまうんでしょうね。
先日先生と話していて感じたのは、やはり「教育」の違いでした。
先生のお子様達が通われていたドイツの学校では、大震災が起こった直後の1週間、通常の授業が全て、大震災に絡めた内容に切り替えられたそうです。たとえば、化学であれば、サイエンスの観点から「大震災について考えよう」、などといった内容に変更されたのです。
そしてその1週間は、知識の習得だけでなく、子どもたちや先生一人ひとりの、被災された方々への目に見えない「おもいやり」が自然と生まれるようになりました。
「今どんなに辛い想いをされているのだろうか。」
「他の国にいても私にできることは?」
そして、学校から帰ってきた子どもたちが、授業で感じたことを家族と話すことで、またおもいやりが広がっていく。
テレビや新聞から得る疑似体験とは違った、"授業"という原体験を通して生まれる"wiki化"できない「想像力」。それが「おもいやり」や自分事化に繋がるんですよね。
想像力を育むとは、決してアートや音楽といった芸術的な才能を伸ばすことだけではなくて、
見えない何かを心で見られるようになることで、「おもいやり」に繋げていくことなんだなと、この話を受けて痛切に感じました。
日本でのカウンセリングを終えてドイツに戻られた先生が、被災者の方々が前述のような言葉の暴力を受けて苦しんでいる事実を周囲に伝えると、「理解できない」といわれたそうです。
子どもは大人を模倣するものだから、「放射能がうつるからあの子には近づかないで」、といった学校のイジメの背景には、もしかしたら子どもが他の大人が口にしているのを耳にした可能性もあります。
見上げると、垣根のない一面の空で地球全体が繋がっているというのに、目に見えない「壁」のようなものが創られ分断されていることって、本当に多いなと改めて思いました。
物質的なものや目に見えるもので判断することに慣れすぎてしまっている社会で、私たちがそういった分かりやすい尺度に偏りすぎていたんだなとも思いました。
では、想像力を育むために、家でもできることってなんだろう?
私はシュタイナー教育からそのヒントを得ました。
それは、普段の家庭での読み聞かせの時間に、ときどき「素話」を取り入れてあげることです。
幼児の子どもには絵本の読み聞かせをするご家庭も多いかと思いますが、
「素話」とは、視覚的な絵本も見せずに、ただママやパパが、お話をすることです。
たとえば、浦島太郎の話をするなら、
「ある秋の日差しのとてもきれいな夕方、海岸に行ってみると、海の水に夕日が映ってとてもきらきら輝いていました。浦島太郎さんという若い漁師が裸足でその海岸を歩いていました。夕方だったので、裸足で歩いていると、砂がとても冷たく感じられました。しばらくそうやって歩いていると、向こうの方から子どもたちの叫ぶ声が聞こえてきました」
といったように、物語の個々の情景をできるだけ具体的に話してみる。
すると、子どもたちは心の中にいろいろなイメージを作りあげていきます。
「ごっこ遊び」が得意な子どもたちは、夢の体験の延長上で聞くのです。
内容はなんでもいいんです。勝手に親がアレンジしてしまって構いません。
大切なのは、子どもの想像力の源泉でもある、「夢」を中心にした生活を大人が大事にすること。
子どもの想像力を育み、将来の「魂の発達」を大きく左右するともいわれています。
私はこれがストーンと腑に落ちました。
実際に5歳の娘に「素話」をすると、目をキラキラ輝かせてジーッと聞いたり、嬉しそうに質問をしてきたりします。
また先生によると、年齢の少し高い子どもには、文字だけの本を読むことがお勧めだそうです。
テレビ、YouTube、ゲームなど、画面やスクリーンから瞬時に得られる視覚的情報に溢れている現代は、情報伝達が素早く便利になった一方で、私たちの想像力を働かせる機会が限定されてしまっているといえます。
ですから、活字を通して心の中で想像力をふくらませることのできる読書を推奨する先生のお考えにはものすごく納得です。
また、それは大人の私たちにもいえることですよね。
視覚的なもの、物質的なもの、成績などの"わかりやすいもの"が無意識のうちに判断基準になりがち。
私は昔から本を読むのは好きですが、昨年から少し意識してみたことで、ぐっとSNSを開く頻度が減って、さらに本を開く頻度が増えました。
子どもも大人も、もっと想像力が育まれ、物事の背景の裏側や、表面化しない、誰かの心の中で抱えられているだろう悩みや苦しみに、ひとり、またひとりと少しずつ寄り添えるようになったら・・
世界平和は、おもいやり、愛、そして想像力という目に見えないものから生まれるのではないかと・・。
理想論すぎ?でもこれが本質だと信じている。
そんな想いを空に馳せながら、今回の素話を締めくくりたいと思います。
おわり。
〈浅倉利衣さん連載〉
「わたしはわたし」自尊心を育む子育て